ブラス! 目次
石炭産業の死滅
原題について
見どころ
あらすじ
炭鉱産業のスクラップ化
グリムリー・コリアリー楽団
アランフェス協奏曲
されど厳しい現実
サドルワースで
グローリアの仕事
追い詰められたフィル
投票結果
バンドの「再生」
連帯する妻たち
サンドラの決意
優勝、そしてダニー・・・
産業構造の転換と石炭産業の死滅
エネルギー構造の転換
ブリテンの石炭産業の歴史
  森林の枯渇と石炭産業
歴史的情景の描写記録として
おススメのサイト
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ダイヤモンドラッシュ
マダム・スザーツカ
アバウト・ア・ボーイ
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信州まちあるき

■産業構造の転換と石炭産業の死滅■

  映画のエンディングでは、ブリテンの石炭産業の死滅と労働者の悲運に関する次のようなメッセイジが流れます。
  ・・・1990年代、サッチャー政権は産業構造の転換政策を強行して、石炭産業は死滅させ、およそ25万人の雇用が失われた。それとともに、地方諸都市の失業者は増加し、都市コミュニティは衰退していった・・・と。

  悲惨な経済社会の状況を背景に《文化や営みとしての音楽》――地方都市のブラスバンドをめぐる人びとの営為――が描かれる物語です。芸術としての音楽は美しい。だが、音楽は日々を生きる人びとが奏でるものです。それゆえ、音楽にはその人びとの社会的存在状況、生活が音楽活動に直接持ち込まれることになるのです。

  この映像物語は、南部ヨークシャーの実在都市グライムソープの楽団の実話にもとづいて翻案されたものだということです。そこで、サッチャー政権の産業政策のもとでのブリテンの石炭産業の死滅過程について社会史的に分析してみましょう。

■エネルギー産業の構造転換■
  さて、世界経済の次元では、たいていの「先進諸国」では1970年代末までに石炭産業は――国内の基幹産業としては――「安楽死」させられ、基幹エネルギー(化石燃料)の中軸は、石油、さらに天然ガスへと移行していきました。ただし、安価な化石燃料として発電や製鉄の原燃料として国外から輸入されるという状況は続きました。
  そして、そのようなエネルギー構造の転換にともなう世界的規模での原油消費量の増大は、先進諸国の石油メイジャー資本に支配されていた「産油諸国の反乱」を呼び起こしました。
  日本でも、高度経済成長期の前半(1955〜1960年代前半)でエネルギー産業が石炭から石油産業へと構造転換させられていきました。そこでは、組織率と戦闘性の高さを誇った石炭産業の労働組合は、仕事の場と生活の場を守るために、産業構造の転換を迫る酷薄な政権と資本に対して、激しく抵抗し闘いました。たとえば三井三池炭鉱争議の問題
  しかし、結局、世界的規模でのエネルギー供給・需要の構造転換は進み、日本の石炭産業も死滅していった。


  そして、基幹エネルギーが石油に転換し終わった途端、OPECの反乱をきっかけとして、石油危機が生じました。もはや石油エネルギーの消費量はかつての石炭全盛の頃をはるかに上回り、石炭産業の自立的経営と供給能力は終焉・枯渇していたので、代替エネルギー源は見つからず、石油消費諸国は世界市場の価格システムの変動を受け入れるしかなかったのです。
  まさに絵にかいたようなシナリオではありませんか。
  世界経済の石油依存構造をつくり出しておいて、産油諸国が国民国家としての権利に目覚めて抵抗を企てた途端、オイル・メイジャーは、産油諸国の値上げ分の何十倍にも世界市場での流通価格を引き上げたのです。
  だから、産油諸国が手にした原油代金の何十倍もの利益が、当時、ゼヴン・シシターズ(7人姉妹)と呼ばれていたオイル・メイジャーの懐に転がり込んだのです。OPECの反乱によって、産油諸国は原油生産に対する統制能力を飛躍的に高めたのですが、世界市場での精製・供給システムでのメイジャーの支配力に対してはついに勝てなかったのです。
  それにしても、産油諸国は手に入れた巨額の原油収入によって政治的・経済的影響力を高めて、ときにはアメリカなど先進諸国の優位を脅かすこともあった。

  最先端産業としてのメイジャーの技術力と金融能力は巨大で、産油諸国が結束しても、いかんともしがたかったのだ。
  その世界的規模での石油供給システム=権力構造を支えていたのが、アメリカとブリテンの巨大な金融コンツェルンでした。とりわけ、ブリテン――シティ・オヴ・ロンドン――の金融資本はブリティッシュ・ペトゥロリアムとロイヤル=ダッチ・シェルと直接に融合して、オイル・メイジャーの世界市場支配のメカニズムを構築していきました。
  アメリカのヘゲモニーのもとでさえ、地中海、中東方面での産油産業への投資は、事実上、ロンドン(シティ金融資本)のコントロール下で展開されたのです。金融ノウハウでは、アメリカ資本はまだまだ「田舎者」でしかなかったようです。

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