刑事フォイル第9話 目次
第9話 丘の家
足の引っ張り合い
フォイルの転職活動
空き家での爆死事件
ウィリアムの恋人
ウィリアムの両親
「丘の家」
「丘の家」の教官たち
偽装の綻び
悪あがきの帰結
追い詰められたSOE
付録 戦況の構造転換
Uボートの通商破壊の実相
 
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Uボートの通商破壊の実相

  制海権を握れなかったドイツ海軍は、世界貿易を支配するブリテンの能力を破壊するためにUボートによる商船攻撃――通商破壊戦略――を大がかりに展開することになった。
  世界貿易で再優位に立つブリテンは、広大な植民地帝国の各拠点と本国の主要港――ロンドン、ポーツマス、ブリストル、リヴァープールなど――を結ぶ航路をつうじて経済的資源(戦略物資)のやり取りを繰り広げていた。
  ところが、ブリテン海軍のキャパシティがいかに大きかろうと、世界の海洋に張り巡らされた商船貿易航路のすべてに防衛のための艦隊を派遣することはできない。しかも、ブリテンの主要港をめざす船舶は、最終的にブリテン近海の航路に入らなければならない。

  もちろん、北大西洋と北海のブリテン近海には数多くの駆逐艦や巡洋艦が遊弋して、ドイツのUボートの攻撃を封じ込めようとしていた。とはいえ、ブリテンの制海権がおよぶ海洋は限られていた。
  そこで、ブリテン海軍は大西洋では航路帯を選別して護送船団方式での商戦の航行を防衛した。とはいえ、ブリテンの貿易商社はつねにものすごく多数の船舶を動かしているので、すべての船舶や船団に駆逐艦や巡洋艦をつけるわけにはいかなかった。

  一方、Uボートは小型の潜航艇なので航続距離は限られていた上に、その補給基地もノルウェイ沿岸部とブルターニュ半島に限られていた――寄港地としては、ブリテンと政治的に対立するアイアランドの諸港が使われたが、燃料や兵器の補給基地にはなりえなかった。したがって、Uボートが出撃できる作戦海域もまた、ブリテンに近い北大西洋と北海に限られていた。
  Uボートはその小回りの利いた機動性を活用して、ブリテン近海での商船破壊を繰り広げた。ことに、近海で個別商船がそれぞれの目的地の港に向かうために船団を解除して単独航行に移るのを待ち構えて魚雷攻撃をおこなった。
  こうして1940年秋から41年夏まで、毎月4万トンもの商戦がUボートによって撃沈されていた。


  しかし、その頃、ブリテン軍情報部はドイツ軍のエニグマ暗号機の暗号システムの解読に成功しつつあった。Uボートの作戦にかかわる海軍のエニグマ暗号も部分的に解読されていた。だから、決定的に重要な戦略物資を運搬する船舶については、海軍の手厚い護衛体制を構築できたので、被害は少なかった。
  そして、ブリテン艦艇によるUボートの撃沈や作戦阻止は、あたかもそれが偶然の結果であるかのように偽装された――作戦行動を読んでの待ち伏せのようには決して見えないようにしていた。

  さらに、政府と軍はラディオや新聞の報道を統制して――ドイツを欺くため――、ブリテン商船撃沈は頻繁に報道させても、Uボート撃沈の戦果については一切公表しなかった。だから、ブリテン市民は海洋での戦いでもブリテンはドイツに苦戦しているという情報ばかりに接していたことになる。どんな民主主義国でも、戦時には報道は統制され、国家が選別した情報だけが流されることになるのだ。

  だが、エニグマ暗号を解読できていることをドイツ側に悟られないために、ブリテン海軍はあえていくつかの船舶については、Uボートの攻撃を放置していた。つまり、Uボートによる撃沈の外見上の戦果トン数はそのまま減らないようにしていた。言い換えれば、運が悪く戦略的重要性が低く評価された船舶とその乗組員は見殺しにされたわけだ。

  1941年夏以降は、ブリテン空軍の戦闘機の生産数と戦役投入数はしだいに増加していった。そのなかには、沿岸の航空基地に配備されたり、空母に積載されたりして洋上での索敵行動に用いられる航空機もあった。
  航空機による索敵活動は、Uボートの攻撃をUボートの作戦行動の余地をさらに狭めることになった。

  だが、ヨーロッパ大陸におけるドイツの軍事的優位はこの時点では圧倒的で、覆すことはできそうもない状況にあった。とはいえ、長期的な戦争の帰趨を決定する要因は、世界貿易をめぐる軍事構造だったから、この時点でドイツの勝利はありえない状況になっていた。

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