ガタカ 目次
人生は遺伝子では決まらない
原題と原作について
見どころ
あらすじ
適正者と非適正者
共同主観としての「優劣序列」
優劣の逆転
社会の階級構造と抜け道
ユージーン・モーロウ
虚偽のパースナリティ
殺人事件
…ヴィンセント包囲網
美女の接近
適正者と非適正者
遺伝形質の意味
アントニオの捜査指揮
2人のジェローム
兄弟対決
宇宙への旅立ち
科学技術と価値観の人類史
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
医療サスペンス
コーマ
評  決

適正者ヴァリッド非適正者インヴァリッド

  2050年代、生化学や遺伝子テクノロジーを発達させた人類は、受精の段階から、個人の社会的格差を構造化する社会システムをつくり上げていた。自分の子どもをエリートとしての人生に乗せたい親は、自分たちの精子や卵子を専門家に解析させて、優秀な因子だけを保存し、病理や精神的・身体的に「弱い」と評価される因子を除去して受精・妊娠させ、完全に管理された出産によって、「完全な子ども」を設けるようになった。
  だが、この「管理された出産」は、当然のことながら、非常に金のかかるもので、富裕階層だけがエリート子孫の誕生を保証されていた。
  この時代、形式的・制度的な民主主義はずっと進歩し、民族や人種、文化などによる差別は厳格に禁止されていた。だが、遺伝形質の優劣による個人の選別は「管理された出産」によって確固たるものになっていた。

  社会や企業・団体での幹部や指導的地位に選ばれるのは、「管理された出産」によって誕生した「適正者( Valid )」と呼ばれる個人だった。ヴァリッドには、「法的に正当なもの」とか「真正なもの」「真実の」「健常者」などの意味がある。つまり、そこには社会の中核を担うべき「真に適正な個人」という思い上がった評価が込められている。
  要するに偏見に満ちた価値観による評価システムが存在するわけだ。権力の拡大再生産システムがあるわけだ。誰が、どのように評価・格付けするのかを考えてみるがいい。
  これに対して、普通の自然妊娠=自然出産で生まれた一般の人びと(社会の圧倒的多数派である)は、「非適正者(Invalid)」と呼ばれた。インヴァリッドには、「適法でないもの」「真正でないもの」「誤り」「廃疾者」という意味がある。まったくふざけた烙印だ。


  ヴァリッドとインヴァリッドとの判別は、企業などのエントランスの装置の血液遺伝子検査によって瞬時におこなわれる。インヴァリッドの刻印を押された人びとは、企業や組織・団体への採用時点から、指導者やエリート、幹部コースから除外される。
  遺伝子それ自体は可能性にすぎないのにもかかわらず、実際に能力を発揮し業績を残すかどうかにかかわらず、そもそもはじめからインヴァリッドには機会(の平等)が奪われているのだ。遺伝子コードの判定だけで

  こうして、この社会は、遺伝形質についての特殊な判別制度によって、厳格な階層序列に人びとを押し込める、一種の全体主義的レジームにある。

■ヴィンセントとアントニオ■

  さて、フリーマン夫妻の長男、ヴィンセントは自然出産で生まれた。病弱で身体の成長の遅い子どもだった。幼児の頃から近視による視力低下が始まった。そして何より、ヴィンセントの遺伝子解析によれば、彼は心臓疾患をわずらう可能性が高く、予測寿命は30.2歳ということだった。つまり、30を過ぎれば心臓病で死ぬ確率がきわめて高いという予測だった。
  そこで、フリーマン夫妻は次男――男女性別の選好は富裕者の思いのままだった――は、ジェネティカル・テクノロジーによって「管理された出産」で設けることにした。負債の遺伝子から、身体的・精神的に優れた能力因子だけを選別保存して、遺伝形質をつくり上げた。

  生まれたアントニオは、幼児のうちに兄の体格を追い抜いた。視力は抜群、知能指数も兄をはるかにしのぎ、運動能力もはるかにまさっていた。ヴィンセントは、親の愛情(いや期待度というべきか)の注ぎ具合や学校や社会での評価の格差を思い知らされながら育った。劣等感と強い反発=挑戦心の塊になった。
  こんな悲しい兄弟関係があるだろうか。

次のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界