ガタカ 目次
人生は遺伝子では決まらない
原題と原作について
見どころ
あらすじ
適正者と非適正者
共同主観としての「優劣序列」
優劣の逆転
社会の階級構造と抜け道
ユージーン・モーロウ
虚偽のパースナリティ
殺人事件
…ヴィンセント包囲網
美女の接近
適正者と非適正者
遺伝形質の意味
アントニオの捜査指揮
2人のジェローム
兄弟対決
宇宙への旅立ち
科学技術と価値観の人類史
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炎のランナー
医療サスペンス
コーマ
評  決

宇宙への旅立ち

  ロケット宇宙船発射の前々日の夜、ヴィンセントはアイリーンと最後のデイトをした。一夜をともにし、愛を交わした。夜明け前、ヴィンセントはガタカへの出勤に備えての習慣を思い出した。体毛や老化した皮膚をこすり取るために、浜辺に出ていった。これは、すっかり習性になっていたようだ。
  だが、ヴィンセントはもはや、ジェローム・モーロウを演じるのをやめて、ヴァリッドの自分自身のまま振る舞おうと決断した。だから、アイリーンにありのままを話した。
  ジェロームの身分を偽装する契約を結び、ガタカで宇宙飛行士になるため必死で努力して、ヴァリッドの誰にも負けない知的・身体的能力を身につけたことを。つまり、科学の名において世の中に罷り通っているインヴァリッドに対するヴァリッドの優越という「偏見=先入観」が、ヴァリッドが自分の夢や人生の目標を抱き努力する条件を奪っていること、だが、ヴァリッドは諦めてはならないことを。

  だが、アイリーンは、自分には心臓疾患が発症する確率が30%もあるので、ヴァリッドと対等に競争することはできないと言った。これに対して、ヴインセントは、
「ぼくの場合は、心臓疾患の確率は何倍も大きかったんだ。だから、遺伝形質から見ての診断では、ぼくはもうとっくの以前に心臓病で死んでいるはずなのさ。けれども、ぼくは生きているし、宇宙飛行士になれた。あなたは、もっと才能に恵まれている…
  疑うなら、これをサンプルに調べればいい」
  そう言って、髪の毛を1本を抜いてアイリーンに渡した。
  けれども、アイリーンはその髪の毛を捨て去り、「風に持っていかれたわ」と返答した。

  アイリーンと1日を過ごしたヴィンセントは自宅に戻った。
  ジェロームは保冷室にいた。自分の血液や尿などのサンプルをつくっていた。この先、ヴィンセントが宇宙旅行から帰還してからもジェロームを演じ続けるのに必要な分量を用意したのだ。
「宇宙から帰ったら、これを使ってくれ。必要な分量はある」とジェローム。
「ありがとう。でも、なぜこんなに?」とヴィセントは尋ねた。
「ぼくは遠い旅行に出ようと決心した。だが、ぼくの遺伝情報を証明する試料が必要だろ」
  だが、翌日、ヴィンセントは入館手続き用の少量の血液のほかは持って出なかった。尿検査用のサンプルは置いていった。もはや、入館したのちはジェロームを演じ続けるつもりがなかったからだ。ヴァリッドのヴィンセント・フリーマン自身に戻って振る舞うつもりだった。


  それで宇宙飛行の資格がはく奪されても構わないと考えていた。
  というのは、意思と努力でここまでヴァリッド・エリートとの競争で勝ち抜き生き残ったのは事実だから、その事実の達成だけで満足してもいいと思ったからだ。
  だから、尿検査では自分の尿を提出した。
  検査官のレイモア博士はサンプルを受け取って解析装置に入れた。すると、装置のディスプレイに「インヴァリッドのヴィセント・フリーマン」という生体ID情報が表示された。だが、レイモア博士は、解析結果の変更ボタンを押して、「ヴァリッドのジェローム・ユージーン・モーロウ」の表示に切り換えてしまった。

  じつは、以前からレイモア博士は、ジェロームがヴィンセントだと知っていた。何しろ優秀な解析官=医師なのだから。だが、ずっと、ジェロームとして対応していた。その理由は、ヴィンセントに語った彼の言葉に示されていた。
「私の一人息子は、君の熱烈なファンなんだ。だが、あの子には遺伝子的な欠陥があるという診断が出されているんだ。だがら、(インヴァリッドでありながら宇宙飛行士なった)君は息子の憧れ、夢なんだ」
  遺伝形質に血管や弱点があっても、夢を捨てずに努力すれば、目標を達成できる可能性を証明したのがヴィンセントだったのだ。優秀な生化学者=意思であるレイモア自身が、ヴァリッド(という特殊な遺伝情報)の優越というフィクションを打ち破りたいと願っているのだ。

  というわけで、ヴィンセントは無事に宇宙船に乗りこんで、宇宙に出発した。
  一方、ジェロームはそのとき、自分の身体を自宅の焼却設備のなかに押し込んでいた。ヴィンセントが搭乗したロケットの噴射装置点火のタイミングに合わせて、焼却スイッチを入れた。彼の身体は炎に包まれた。彼は死の世界に向かって旅立った。彼の最後のつぶやきは「ヴィンセント、ありがとう。ぼくは夢がかなった」だった。

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