IORがカルヴィの「金融帝国」に対して信用上および政治上の後ろ盾となるのと引き換えに、マルチンクスは、彼の裁量で進める教会の政策やキャンペインのために、アンブロジアーノ銀行から多額の資金を融通させました。
そして、その「闇の送金ルート」を利用することを条件に、庇護と利権の誘導をめぐってカルヴィと大司教は互いに「影響力の手形交換」をしたのです。
しかし、IOR側が振り出した「約束手形」の決済を履行するのは、相手の利用価値が高いあいだにすぎず、値崩れを起こせば、たちまち「空手形」「不渡り手形」になってしまうのです。シンドーナに対してのように。
IORへのこのような資金供給の元手は、アンブロジアーノ金融グループ内での「株ころがし」「資金ころがし」によって獲得した利得であって、つまるところ、名目上膨張した企業資産です。この資産ころがしや信用膨張は、他方で、ヴァティカン銀行の後ろ盾があることによって可能となり持続するのです。
ゆえに、泡のような膨張の後には破裂が避けられない性質のものだったといえます。
しかし、この危険極まりない――見かけ上は大きな利回りを生んでいる――株ころがし、資金ころがしには、多数の一般庶民の預金や預金を担保にした「投資」が回されていたのです。
アンブロジアーノ銀行の窓口では、「高い利回り」を吹聴しながら、預金者にこのような「投資」を勧誘し続けていました。
アンブロジアーノの役員会の面々はただカルヴィの手腕に感心し、半ば恐れ、他方でその強引な手法に危惧を抱きながらも、経営方針に反対する者はいませんでした。みんなが「勝ち馬に乗った」と思っていたのです。
ただしこの馬、調教を受けずにむちゃくちゃな走りをする馬で、騎手を振り落とす勢いで、馬場から大きく飛び出していたのです。どこに向かって奔走するのか、だれにもわかりませんでした。