さて、発覚したP2ロッジ会員リストによれば、当時のイタリア国家の権力中枢のメンバーの多くは、このロッジに加盟もしくは関係していました。
加盟者のなかには、自称「王族」がいました。
イタリアは、ファシスト政権崩壊後、レジスタンス勢力中心の共和国政府が統治権を握りさまざまな変革を進めました。そのなかには王政の廃止がありました。
王権は、ファシスト政権の「暴走」を止められず、むしろその正当化の機能を果たして、ナチスとの同盟、民衆への抑圧に加担したのではないかと判断されたからです。
旧王族の特権と資産は共和国によって廃棄・没収されました。
しかしその後、「旧王族」家系と自ら名乗る人たちが、王家の資産の返還または補償を要求したのですが、身元素性がいかにも怪しげだったので、不当な要求として無視されました。
この自称王族も会員メンバーに名を連ねたとか。
まともな政治団体が相手にしない、くわせものをメンバーにするところから、P2ロッジの見識や品格のひどさがわかります。
このP2という団体(フリーメイスン)は世に言われているほど強い影響力があるわけではありませんでした。
ジェッリを中心とする右翼の跳ね上がり分子が好き勝手に分派行動を引き起こしているので、本当の支配勢力(エリート)からは秩序の安定の攪乱要因として迷惑がられていたようです。
しかし、政財界、軍、官の成り上がり者たちは、何を勘違いしたのか、保身のためか、あるいは脅迫されたのか、この組織に名前を連ねた(名前を貸した?)のです。
とにかく、そのP2の右派が危機感に駆られて、反左翼キャンペインを企てました。しかも、危機感をあおりながら、目ざとく金儲けのチャンスを拡大していきました。
とりわけ国内での左派の伸張に過剰反応して、内閣府の組閣に介入したのです。このほか、イタリア軍へのアメリカからの最新兵器購入(予算の上前をはねるためか)の仲介などを画策。
さらに、モーロ首相暗殺や要人誘拐、脅迫、独立系進歩派ないし共産党系の判事への襲撃などに関与していきます。
こうした謀略のために、P2ロッジを含めた右翼諸組織の内部および相互間で駆け引き(縄張り争い)や分派間対立を展開していました。
ことに極右組織は主要な駅や交通機関、公共施設などに無差別の爆弾テロを仕かけ、それを極左組織の仕業と見せかけるために偽の「犯行声明」をマスコミに向けて流しました。
これは、「偽の旗印」作戦( the false flag campaign )と呼ばれます。