▲原作ペイパーバック
大統領選挙を間近に控えたある年、連邦最高裁判所の判事が相次いで暗殺された。大統領は2人の判事を補充する人事案を検討し始めた。そして、リベラルだが、過激な環境保護派には批判的な人物を推薦候補リストに載せようとする。
このリストのなかから大統領は、最高裁判事の欠員補充をする判事候補を指名して、議会の承認を取り付けることになる。
ところで先頃、ルイジアナの海辺の湿地帯開発の差し止め訴訟(環境保護派が提訴)の初級審判決が出た。陪審団の評決で石油企業は採掘権を認められたが、裁判官は環境保護派の言い分をも認めて、当面、開発事業への着手を差し止めた。開発を推進しようとする大手石油企業は、判決を不服として控訴しようとしていた。第2審の判決の結果がどうあれ、負けた側は上訴(上告)するはずだ。それは、今から3年後になるか、それとも5年後になるか、まだ先の話だ。
けれども、開発よりも環境保護の優越を認める判事が、1人、また1人と死んでいけば、数年後には、開発推進に賛成する判事が多数派となる。そのトレンドを現職大統領は推し進めようとしている。なにしろ、石油関連企業から飛びぬけて巨額の財政支援を受けているのだから。
ところが、ある法科大学院生(女性)が、こうした後ろ暗い事件の背景を暴くような概要書を書き上げた。もちろん、半ば遊びで、映画のシナリオでも書くつもりだった。だが、ロビイストと資金による緊密な結びつきが明らかにされ、また最高裁判事の暗殺事件と石油企業とのつながりが暴露されれば、この謀略が破綻するだけでなく、大統領の再選そのものが危うくなる。
しかし、その文書は独り歩きして、FBIに届いた。そこから大統領補佐官のもとに到達した。その文書が示す「謀略の構図」は、大統領とワシントンの闇の回路をつうじての問題の企業との癒着・結託を暴き出すものだった。
現職大統領の再選のキャンペインを指揮する補佐官は、このスキャンダルの発覚を押さえ込むための謀略を繰り広げようとする。石油開発の利権のためには人殺しも辞さない大統領補佐官と悪徳企業家の「魔の手」が、大学院生の身辺に迫ろうとしていた。
ここで展開する権力犯罪・謀略のプロットは単純だが、大統領とスポンサー企業との関係、大統領府と最高裁、連邦検事局(FBI)との関係が端的に描かれる。アメリカの権力機構を学ぶためには格好の作品だ。