ペリカン文書 目次
大統領府の謀略
原題と原作について
見どころ
あらすじ
発   端
法科大学院で
「概要書」の独り歩き
大統領補佐官の暴走
  殺し屋カーメル
  「内通者」ガルシア
忍び寄る魔の手
  ヴァヒークの殺害
グランサムとダービー
追い詰められる大統領
ダービーとグランサムの闘い
カーティス・モーガンの死
ダイイングメッセイジ
反撃、そして取引
大統領失脚
作品が描く人物と社会
  ダービーの能力
合衆国の司法制度の1断面
  陪審制とサーキットコート
  複合的で多様な裁判制度
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コーマ
評  決

「概要書」の独り歩き

  数日後、キャラハンはニューオーリンズのバーで大学院の同窓生、ギャヴィン・ヴァヒークと一杯やっていた。ギャヴィンは今、FBI長官の特別法律顧問をしている。2人とも、ローゼンバーグの指導を受けたリベラリスト。そのゼミナリステンのなかで飛び抜けて優秀だったのが、キャラハンだった。
「お前なら、最高裁判事にもなれるんじゃないか。ローゼンバーグの後継者として」とギャヴィンが言うと、 「いや、俺も年をとって、能力が磨耗してきた。ロースクールでの講義ですら、やっとだよ。それよりも、俺のクラスの学生のなかに非常に優秀なのがいる。美しい女性で、俺の今の恋人なのさ」とキャラハン。
「そりゃ、いい。で、そんなに優秀なのかい」
「ローゼンバーグとジェンセンの暗殺の真相・背景について、彼女が書いた概要書だ。面白いプロットだ。呼んでみろよ」
「ふーん。FBIの捜査の参考になるかな」

  というようなわけで、ダービーが書いた「ペリカン概要書」はFBIの法務官の手を経て長官の手許まで渡ることになった。というのも、FBIの捜査は行き詰っていたからだ。国家の枢要な人物が暗殺された事件の解決の手がかりが何もなかったのだ。FBIは、事件解決を求める世論や各方面からの政治的圧力を受けていた。
  FBI長官は、概要書から何かを直観したようだった。内部の極秘資料として複写させ、捜査部門に検討させることにした。


  ところが、FBIは独立の機関として法の執行を管轄する組織だが、国家権力装置である以上は、パウワーポリティクスの強い磁場が働くフィールドでもある。それゆえ、局員のなかには、大統領派の息のかかったメンバーがいる。彼らは、概要書が石油企業と大統領との緊密な関係(癒着)を犯罪の背景と指摘していることに、不安を覚え、さっそく大統領府に「非公式」の連絡をした。
  それは、連邦憲法上、違法行為である。というのは、司法=捜査検察機関としての(政治・行政権力からの)独立を侵害する行為だからだ。だが、多様な政派が入り乱れて権力闘争を展開するワシントンでは、日常茶飯事だ。確たる証拠がなければ、憲法違反は立証されないし、対立派もまたやっていることだ。

  補佐官のフレッチャー・コールが、この裏世界の情報流通を取り仕切っていた。コールからの報告を受けて、大統領は非公式にFBI長官、デントン・ヴォイルズを呼び出した。長官は公式上は拒否してもよかったのだが、首都の政治世界で生き延びるためには、大統領の呼び出しを無視するわけにはいかない。
  で、ホワイトハウスに出向いてみると、大統領から「ペリカン概要書」が提起した角度からの捜査を止めるように圧力をかけられた。要求をはねつけるのも手だが、ここは交換条件を出させて取引するに如かず、と考えた。そこで、「最高裁判事の警護を担当していたFBIを非難する政治的意見を封じ込めてくれるなら…」と取引条件を切り出した。
  だが、いつかこの問題が明るみに出れば、憲法違反の行政事犯として訴追されるおそれがある。だから、大統領の要求をこっそり録音しておいた。この保険は、みごとに功を奏することになる。

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