さて、重要なインフォマントを失ったグランサムだったが、ある夜、自宅の電話が鳴った。ガルシアが思い直してくれたかと、受話器に飛びついたが、相手の声は若い女性だった。
「判事殺害犯を知っているわ」という声。 「そんな電話が何百あると思っているんだい。君は誰だ」とグランサム。
最初の会話は険悪だった。が、グラサムはやはり「トーマス・キャラハンが暗殺された」という女の声に直感を得て、情報の交換に応じることにした。彼女もまた、敏腕新聞記者から何かの情報を引き出したがっているようだった。
ダービーは、グランサムに大統領への献金者(金額)リストを入手するよう求めた。それがインタヴュウ(面会)の条件だった。面会場所は、ダービーが宿泊しているホテルの部屋だった。
グランサムはダービーと面会して、最高裁判事暗殺をめぐる驚くべき情報を聞き出した。
○「ペリカン文書」は実在し、ダービーが書いたこと。
○文書はキャラハンをつうじて政府機関(FBIや大統領府)に流れたこと
○判事暗殺の首謀者たちは、文書を危険視し葬り去るために画策し始めたこと。
○ダービーをキャラハンとともに葬り去ろうとして、車に爆薬を仕かけたこと。そのためにキャラハンは死亡したこと。
○ダービーはFBIのヴァヒークに保護を求めたが、ヴァヒークは遊園地で殺害されたこと――ダービーはカーメルの罠にだまされていて、死んだのはカーメルだった。これについて、グランサムは、ヴァヒークは前日の深夜に殺害されていたという事実を告げた
そして、ダービーは「ペリカン概要書」で展開した推論を説明した。自分の推理と証拠を語った。
ダービーが、ヴィクター・マティース(と彼が所有する企業)と2人の最高裁判事の暗殺、大統領府、そして開発差し止め訴訟との関連を見抜いたきっかけは、ルイジアナでの訴訟を指導していた環境保護派の弁護士の突然の死だった。
ルイジアナの裁判所の評決の直前だった。弁護士はホテルの部屋で死んだ。死因は銃弾が頭部を貫いたこと。板の手許には銃があった。弁護士は、訴訟のための書類にうつ伏して死んでいた。
警察は神経衰弱による自殺と判断した。彼には鬱病歴があったからだ。だが、数か月前に完治していた。家族は他殺だと訴えたが、認められなかった。
ここまでの経緯をダービーはまとめてみた。
@環境保護派の弁護士の殺害、そして最高裁判事の暗殺。
A2人の最高裁判事は環境保護派だった。
Bマティースは大統領への献金額で断然他を圧倒すること。
Cマティースは大統領への影響力を行使して、最高裁の政治色を塗り替えることができること。
D訴訟はいずれ最高裁に持ち込まれる見込みであること。
これらの事実を関連づけることは、難しくなかった、とダービーは語った。
すると、すでにこの事件をめぐって、5人が殺されている。マティースは、大統領府の暗黙の了解を受けて、石油開発採掘にとって不利な人物を片端から容赦なく抹殺しているようだ。グランサムは慄然とした。