開廷を告げたフレデリック・ハーキン判事は、陪審員団に問いかけた。
「評決は出ましたか」
ハーマン・グライムズが陪審員団を代表して答えた。
「はい裁判長、陪審評決は下されました。ここに評決を記した文書を作成しました」
手渡された評決文を判事が読み上げた。
「陪審員団は以下の評決に達した……
被告、ヴィックスバーグ社の過失責任を認め、原告、セレステ・ウッドに対して賠償責任を負うものとする。
一般賠償として、100万ドルを支払うものとする。さらに特別賠償(慰謝料)として1億1000万ドルを支払うことを命じる……」
ランキン・フィッチの不敗神話に過剰適応してきた銃器メイカー団体は、大きな衝撃を受けた。当然、控訴することになるだろう。ただし、もはやランキン・フィッチによる陪審コンサルティングは抜きの法廷闘争になるだろう。要するに、ずっとまともな裁判になるだろう。
しばらくして、落胆し意気消沈したランキン・フィッチは近くの店で酒をあおっていた。そこにジェフ(ニコラス)とギャビーが訪れた。
「騙したな。何の目的でこんなことをしたんだ」とランキンが問いかけた。
「インディアナ州ガードナーの銃乱射事件の訴訟を覚えているか。
陪審評決では市側が優位に立っていたのに、あんたが力づくでひっくり返してしまったのだ。
今回は、陪審員団の評決をあなたの画策から守っただけだ。陪審員団を操ったのではない」
こうニコラスは切り返した。
「だが、送金した1500万ドルは大金だぞ。どうするつもりだ。人生が変わってしまうほどの金額だぞ」
返答したのはギャビーだった。
「人生が変わることを期待しているわ。あの金でガードナー市の被害者や遺族を救済するつもりよ」
ランキンは反論した。
「この評決で勝っても、銃器メイカーは控訴して法廷闘争を続けるぞ」
「そうだろうね。銃器メイカーがこのままおとなしく引っ込むつもりはないだろうさ。
けれども、控訴審はあんた抜きでおこなわれるのさ。もう誰もあんたに仕事を頼まない。あんたはもう引退だ。
もしふたたびあんたが陪審コンサルタントとして動こうものなら、ケイマン島経由の不正送金の証拠(記録)を司法省と財務省に送りつける。そうなれば、多額の課徴金をとられるうえに、長い懲役刑が待っている」