オデッサの監視要員たちから見ると、ヴィーゼンタール事務所訪問ののち、ペーターの消息が不明になった。そこで、ペーターと同棲している恋人ジギーの周囲に監視網を配置することになった。この作戦の担い手は、何と、ハンブルク警察の刑事たちだった。そこには、4人のオデッサ関係者が潜り込んでいた。
ある深夜、ヌードダンサーのジギーの帰宅途中、不審な男につきまとわれて襲われそうになったところに、偶然、ハンブルク警察の刑事の車が通りかかり、家に送り届けてもらうことになった。刑事は、今後も危険だとして、警護のため、彼女の住居に女性警察官を置くことを提案した。
翌日から、女性警官がジギーの住居の1室に寝泊りすることになった。ところが、この女性警官はオデッサ組織のスパイだった。いずれペーターからジギーに連絡が入ると見込んで、ジギーに張り付いて監視して、ペーターの所在を突き止める計画だった。
ジギーを襲った男も刑事もオデッサ組織のメンバーだったのだ。
そんなおり、ペーターはミュンヘン駅からジギーに電話を入れた。それは、駅までペーターを送り届けた、フランツ・バイアーの部下にも目撃されている。
ペーターから電話連絡があったことは、ただちにジギーの警護についた女性警官からオデッサ組織に報告された。そして、ミュンヘンのフランツ・バイアーにも連絡された。その結果、ギュンター・コルプなる人物はペーター・ミューラーであることが明らかになった。そこで、オデッサはバイロイトの印刷所に殺し屋を送り込むことにした。
ペーターはフランツの紹介状をもって、バイロイトの印刷業者、クラウス・ヴェンツァーのもとを訪れた。クラウスの話では、証明用写真やら用紙・印刷相量の手配などで丸2日はかかるので、ペーターはそれまで(翌週月曜日の朝)近くのホテルで待つことになった。
そして、月曜日の朝が来た。
ところが、印刷所には、オデッサが派遣した殺し屋が待ち構えていた。殺し屋は、殺しの現場を見られたくないので、クラウス・ヴェンツァーを印刷所から追い立てた。しばらく帰ってくるな、と。
用心深いペーターは、その朝、印刷所の裏側に回って様子を窺った。すると、工房のなかには、銃を手にした男が待ち構えていた。ペーターは対決を選んだ。
工房の裏口から非常階段で2階に上がり、開いた窓から室内に入り込んだ。その部屋には、クラウスの老母が病臥していた。視力も認知能力もすっかり低下している老女は、黒づくめ(黒のハイネックのジャケット)のペーターを見て、神父と勘違いした。