状況は短期決戦ではなく、長期にわたる戦争、それもすぐれて「持久戦」「消耗戦」になろうとしていました。
ヒトラーがもくろんでいたのは、短期の軍事的征服、つまり軍事的支配圏域の拡張でした。ところが、長期におよぶ軍事的支配ないし統治とは、まったく次元の異なる軍事活動です。
ヒトラーとドイツ軍は、短期的戦局を観る目はもち合わせていたのですが、長期的戦略や地政学的な視野はもち合わせていなかったのです。
もっとも、そういう知識や視点がないからこそ、短期決戦の大ばくちに打って出たのですが。
ヒトラーは短期決戦をもくろんでいましたから、征服地での支配と統治は、徹底的にして苛烈な弾圧や殺戮、そして酷い収奪・搾取をこととしていました。
ゆえに、多数の住民を懐柔したり、支配や収奪を覆い隠す「見かけが美しいヴェイル」の断片すら用意しなかったのです。
住民たちは生存そのものを全面的に脅かされてしまったわけです。
うわべだけの再分配や利益の還元すらありません。被征服民衆との妥協点を見出して、統治の長期的な安定を考えることすらなかったのです。
つまりは、長期的に占領統治するレジームや制度を構築することは考えもしなかったのです。
したがって、ドイツ軍の征圧は住民の敵対や憎悪を増幅し、抵抗や反乱の原因をいたるところに撒き散らしていきます。
そのため、ナチスの軍事的優位が少しでも後退すれば、抵抗や反乱が頻発して、占領と征服の陣地や防備がズタズタに引き裂かれるはめに陥ることは必至でした。
ゆえに、占領支配と抑圧・収奪の強化、そして抵抗・反乱の激化という悪循環にはまり込んでいきました。
長期の軍事的支配をはじめから不可能にする条件をドイツ軍自らつくり出していきました。