それにしても、ナチス・ドイツではヒトラーや少数の指導者に権力と権限が集中しすぎていました。個人崇拝ともいえるでしょう。
この権力=序列関係のモデルは、軍隊と社会のあらゆる階層にあてはめられました。その結果、状況が悪化して問題が続発しても、下からは上官から褒められるような「都合のよい情報」しか伝えられなくなります。
すると、指導者は誤った情報にもとづく、誤った状況判断に即して決定を下します。こうして、悪循環の袋小路に陥っていきます。
また、ヒトラーとそれ以前からの指導者たちが準備開発したドイツ軍の兵器や軍事技術を、電撃戦を成功に導いたすぐれた条件だと評価する立場もあるようです。
しかし、すぐれて短期決戦だけに「過剰適応」した兵器と軍事技術でした、そのかぎりのものでしかなかったのです。つまり、軍総体としてのの通常の兵站補給体系への適合を度外視して開発創出されてしまった――自軍にとっても――モンスターなのです。
そのため、持久戦にはまるきり向かない兵器でした。自国の継戦能力を消耗させるだけのものでした。
もっとも、第2次世界戦争で華々しく登場するドイツの兵器・軍事技術の開発は1920年代末から始まっていましたから、あながちヒトラーひとりの責めというよりも、ドイツの軍部や軍需産業界全体の問題なのですが。
それにしても、開発の促進と実戦配備、運用の指導者は、ヒトラーとその無茶な方針を真に受けた軍指導部だったのです。
たとえば、重戦車ティーガー。
すさまじい破壊力と防御性能を誇っているのですが、この戦車1台を製造するために膨大な資源が投入されたました。だから、通常の戦車や兵器の増産が決定的に妨げられました。
ある研究によると、ティーガー戦車1両つくるために、少なくともパンター戦車200両の生産が犠牲となったそうです。
しかも複雑で高度な生産技術、高性能の材料が必要でしたから、手間がかかり、ほんのわずかしか(500両未満)製造されませんでした。
ドイツ陸軍重戦車ティーガー |
ドイツ陸軍X号戦車パンター |
ソ連陸軍戦車T34/76 |
そのために、まともに実戦配備されなかったのです。またその低劣な燃費によって、ただでさえ備蓄の乏しい石油資源の枯渇が加速されました。ティーガー1台の運用のために機甲連隊の機能が停止してしまうのです。キャタピラによる推進を止められてしまえば、おしまいなのです。
機動力が低劣な戦車で、ウクライナやロシアの平原では、ソ連のT−34戦車によって正面ないし側面から体当たりをされると、もはや立ち往生で「擱挫」してしまいました。
戦場で動けなくなった戦車は、蒸し焼きにされる「鉄の棺桶」でしかありません。