結局のところ連合軍は、作戦に奇襲的というか急襲的要素を盛り込み、かつ自軍の被害が最小限に抑えられる上陸地点として、ノルマンディを選択しました。
そして、上陸地点についてのドイツ軍を混乱させるために、ノルウェイ海岸やカレーに上陸すると見せかける偽装作戦行動を起こし、またドイツの情報員たちに偽情報を流してもいました。
他方、ドイツ軍から見れば、上陸の最有力地はカレー、あるいはそこからルアーヴルのあいだのどこかで、一番ありそうもないのがノルマンディでした。
この映画では、歴戦の司令官、ロンメルもそう見ています。
ただ1人、第86軍団長のエーリヒ・マルクス大将だけは、机上の作戦ゲイム( Kriegspiel )としてですが、ノルマンディに上陸すれば、ドイツ軍の防備をどうにか撃破できる可能性を見ていました。
作戦開始の時期はいつか。
連合軍は4月末から、上陸作戦のタイミングを測っていました。
海上からの上陸作戦決行の条件は、潮位(つまり月齢)と気象状況にかかっていました。潮位によって、ノルマンディ海岸の地形や砂浜の大きさはかなり変化するからです。揚陸地点と防御態勢の取り方は、水位と砂浜の地形によって大きく変化するのです。
6月はじめまでに、気象条件と潮位の折り合いで、すでに2回も延期していました。兵士の士気、上陸装備などの点で、もはや猶予はなかったようです。
しかし、この年、6月はじめは荒れ模様の天候がずっと続いていました。
6月5日夜、連合軍の最高司令部では、翌朝、作戦決行するか延期するかを決める最後の会議がおこなわれました。
気象予報官の大佐は、寒冷前線が予想よりも速く通過し、未明から早朝にかけて風雨が止む可能性があることを報告しました。そして、将軍たちからは、もはや待てない局面になっているという意見が続出しました。
一方、先遣隊や急襲部隊の離陸準備時間や船舶の出航時限が迫っていました。
いずれにせよ、多数の死傷者が出るだろう。しかし、ついにアイゼンハウアーは決行を決断しました。
犠牲を極力抑えるために、悪天候の合間の一時的な小康状態を利用して作戦を開始しました。
そして、空軍による大規模な爆撃によるドイツの防衛線の破壊・攪乱による支援、また空挺部隊による海岸後背地への先遣・急襲部隊の派遣。
これらによって敵の防御を背後から切り崩し、町や村を占領して内陸への侵入路と橋頭堡を確保することにしました。
一方、ドイツ軍側では6月5〜6日には警戒していましたが、荒れた天候、強い風雨が続いているため、結局、警戒を解いてしまいました。