殿、利息でござる! 目次
「無私の日本人」・・・
原作について
見どころ
あらすじ
奥州街道吉岡宿の悲惨
穀田屋と菅原屋
菅原屋、利息の重みに嘆く
殿様に金を貸して利息を…
物語は転がり始める
肝煎と大肝煎
全財産を質入れ
煮売り屋は情報の交差点
煮売り屋は情報の発信地
馬方、旦那衆を説く
穀田屋十三郎のコンプレックス
遠藤寿内の復帰
慎ましさを求める
藩への嘆願
門前払い
大肝煎の動揺
浅野屋甚内の覚悟と努力
親子、兄弟の絆
嘆願は認められたが…
浅野屋の悲願
「冥加訓」の教え
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嘆願は認められたが…

  橋本代官は、登城してきた萱場杢の通り道に正座して待ち、杢が通ると嘆願の再度検討を願おうとしたがはねつけられた。一度は嘆願を却下した萱場杢としては、藩庁の威信というか自分の立場もあって、同じ内容の嘆願をおいそれとは受理できない。
  ところで、萱場杢は怜悧で冷淡だが腹黒い悪人ではないようで、橋場代官を脅しつけて追い払うつもりはないようだった。むしろ、杢の方から橋本と顔を合わせないように逃げ回っていた。だが、橋本は杢が執務する部屋脇の廊下に正座して待ち続けた。
  ある日の勤務時間の終了時に、杢は廊下に橋本がいないのを見て二の丸御殿から出ようと玄関に向かったが、橋本はそこに待ち構えていた。そして、逃げ去ろうとする萱場に追いすがって、この嘆願にある請願準備が50近く前から始まっていたことを告げて、再検討を願い迫った。

  吉岡宿の窮状を薄々知っている萱場は嘆願の背景にある事情を察し、また一方では根負けしたこともあって、橋本代官が持参した末書を読み検討することにした。
  藩としても1000両という大金を借りられるなら悪い話ではない。萱場は吉岡宿の嘆願を形の上では認めることにした。
  ただし、そこは怜悧で冷徹な萱場杢、吉岡宿が5000貫文を用意したのなら、さらにふんだくろうと脳裏で算盤をはじいた。そして、藩庁としては金貨をあつかうので、銭をあつかわない、だから金1000両に両替して差し出せという条件をつけて嘆願書を認めることにした。そして、金=小判で差し出さなければ、嘆願は受け付けないつもりだった。

  金融経済と財政に明るくない橋本代官は喜び勇んで吉岡宿に引き返し、大肝煎や肝煎り、穀田屋や住民を集めて嘆願の成功を報告しようとした。
  肝煎の屋敷に集まった人びとの前で、橋本代官は経過と首尾を報告した。


  ところが、嘆願書への返答状に「金1000両に直して」という変更を求める但し書きがあるのを菅原屋が見咎めて、「やられた!」と言い出した。但し書きの内容を知った両替商の遠藤寿内も、「金1000両……ああ、それはまずいぞ!」と嘆息した。
  何がそんなにまずいのか、と橋本代官は商人たちに尋ねた。
  菅原屋をはじめとする商人たちは、銭5000貫文での差し出しと金1000両での差し出しとの相違を説明した。
  通常の通り相場では、金1000両と銭5000貫文は等しいことになるが、仙台藩では先頃から藩が銭を増鋳している。つまり銭のインフレイションが起きていて、金に対する交換比率(レイト)はかなり低下している。寿内の算盤では、銭はこの間に16%も価値が目減りしているので、あと800貫文を足さないと覲1000の交換できないというのだ。

  橋本代官は出資司に差し戻そうと言い出したが、商人たちは反対した。差し戻せばこの話はなかったものにされるはずだからだ。代官もまた萱場がそういう対応をする役人であることを知っていたので、差し戻すことは取りやめた。
  そのとき、穀田屋十三郎は条件付きで認可された嘆願書を大事そうに抱え込んだ。厳しい条件を付加されたが、それは吉岡宿が生き残るための宝物だった。
  そうなると、吉岡宿はあと800貫文を何としても揃えなかればならない。
  この局面で出資した商人たちの間に諍いが起こった。煮売り屋しま屋に集まって愚痴を言い合っているうちに、寿内が拠出額が少ない者がもっと出すべきだと言い張って、早坂屋を責めたのだ。口論はつかみ合いの争いになった。

  みっともない争いを収めたのは、女将のときだった。「お上が悪いのに、仲間どうしが争ってどうするんです!
  いいわ、私が何とかしましょう!」と言い放った。
  小さな煮売り屋の女将がどうやって資金を拠出するのだろう、とみんなは訝った。女将は存大金をどこに蓄えていたんだろう、と注目した。

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