ぼくの大切なともだち 目次
本当の友情って何だろう?
見どころ
あらすじ
現代フランス映画への憧憬
フランソワという人物
意地の競り合い
誕生日のディナーで
友人リスト
ブリュノ・ブーレ
友人づくりを学ぶ?
ブリュノとの1日
友を自己顕示に利用するなかれ
「友情の壺」はふさわしい者に
ブリュノの性格
クイズ・ミリオネア
それから1年後
ブリュノとの再会
「友情」と「個性」
パースナリティの描き方
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サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

本当の友情って何だろう?

  「今日の市民社会のなかでは、他人は自らの利益や目的のための手段でしかない」と言い切ったのは、近代資本主義的社会の経済構造を批判的に解剖したカール・マルクスだ。マルクスによると、近代市民社会のなかでは、人びとの心性は「貨幣の自己増殖運動」によって突き動かされていくことになるという。
  それはまた極端にシニカルな見方だと思うものの、とはいえ、通常、私たちは自分の都合に合わせて人と付き合うようになっている。そういう自分の都合や利益を最優先する人びとが集まって社会は成り立っているのではなかろうか。
  自分を利益や立場を犠牲にしてまで守ろうとすべきほどの友人や友情はなかなかに見つけにくい。それが実情だ。
  とはいうものの、友達や知り合いを自分の都合や利益で引きずり回すのは避けたい。というわけで、自分が一番大事なのだが、自分の都合や利益を剥き出しにするような態度を極力自己抑制するところに「友情」なるものは成り立つのではなかろうか。

  という具合に「友情って何だろう」「本当の友とは何だろう」と考えをめぐらせてみるのに恰好の材料となるフランス映画『ぼくの大切なともだち』(2006年)の物語を取り上げてみよう。原題は Mon Meilleur Ami 。訳すと、「私の親友」とか「素晴らしい友だち」ということになるので、邦題そのままと言ってもいい。

見どころ

  この物語では、私たちからすれば、かなり異常な状況で主人公のフランソワは「親友づくり」「友だち探し」を始めることになる。だが、そんな物語に引き込まれて観終わると、何となく納得してしまう。
  ここで描かれているのは、かなり特殊な人生観、友人観どと思うのだが、しかし妙に納得してしまうのが不思議だ。
  かなり極端な状況設定のなかで登場人物たちの個性のぶつかり合いを描くというフランス映画ならではの、不思議な説得力がある。
  それが、フランス人のエスプリというものなのか。乱暴に言うと、エスプリとは、マンタリテや本質を――小気味よい皮肉や風刺を利かせて――手際よく端的かつ印象的に剔抉し表現する知性であるという。「マンタリテ」とはメンタリティ(心性・精神)を意味するフランス語。
  そこには、現代フランス映画の特質が表れているようだ。
  この特質をつかんでもらうためには、『愛と哀しみのボレロ』『サンジャックへの道』を参照してほしい。

あらすじ

  「俺にだって心を許せる友だちはいるさ」
  「いや、君には友人はいない。君の葬式に来るような友だちは1人もいない!」
  誕生日のディナーで何人もの知り合い――仕事づきあいの仲間――から断言されたフランソワ。「君みたいな自分勝手な奴に本当の友人はいるわけがない」と言い切られたのだ。
  負けず嫌いで誰よりも優位に立っていたいフランソワは反発する。
  「今月中に君らに親友を紹介してやる、さもなければ……」と賭けをすることになった。
  意地になって賭けに勝つために、親友探し、友だちづくりをすることになった。だが、何か話が転倒してないかい?   という風に、不思議なトーンで始まる物語。本当の友、本当の友情とは何かを問いかけてくる。
  フランソワにとっては、友情とは親しさを人に見せつけるためのものらしい。
  それでも彼はブリュノという友人を見つけることができた。
  ところが行きがかり上、フランソワはカトリーヌたちに「本当の親友、本当の友情」なるものを示すために、ブリュノを騙して「友情の壺」を盗ませようとした。ブリュノは、フランソワにとっては自分の優位を人に見せつけるための手段でしかなかったと知って愕然とする。だが、ブリュノは騙されたと知ると、憤って壺を砕いてしまった。
  フランソワとの信頼関係や友情も壊れてしまった。
  賭けのためにブリュノを利用した代償は大きかった。失ってみると、「友達や友情とはかくも大事なものだったか」とフランソワは臍を噛むことになった。悔いたフランソワは自己中心的な行動・発想スタイルを改めるようと涙ぐましく奮闘する。

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