ぼくの大切なともだち 目次
本当の友情って何だろう?
見どころ
あらすじ
現代フランス映画への憧憬
フランソワという人物
意地の競り合い
誕生日のディナーで
友人リスト
ブリュノ・ブーレ
友人づくりを学ぶ?
ブリュノとの1日
友を自己顕示に利用するなかれ
「友情の壺」はふさわしい者に
ブリュノの性格
クイズ・ミリオネア
それから1年後
ブリュノとの再会
「友情」と「個性」
パースナリティの描き方
おススメのサイト
人生を省察する映画
サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

意地の競り合い

  さて、葬儀ののち、フランソワはパリの中心部の繁華街に急いだ。古美術品のオークションに参加するためだ。
  オークションの会場では、30代半ばくらいの美女がフランソワを待っていた。名前はカトリーヌ。フランソワの古美術品店の共同経営者だ。
  カトリーヌは美貌だが、フランソワとは艶っぽい関係にはない。フランソワはあくまで経営での対等のパートナーでしかないと割り切って付き合っているし、そもそもカトリーヌの恋愛の相手は同性(女性)だけなのだ。
  「遅かったわね、フランソワ。待ったわよ」
  「ああ、すまん。知り合いの葬儀に行ってきたんだ」
  2人はエスカレイターに乗って会場に向かった。

  何だか格調高い古美術品のオークションのようだ。
  入札希望者の席はすぐに満席になった。電話での入札もできるようで、オークション業者のテイブルには何台もの電話が列をなし、どの受話器にも担当者が張りついていた。
  競りが始まった。絵画や彫刻などが次々に競りにかけられていく。
  そのうち、出展が取り消しなった絵画に代わって、大きな陶製テラコッタの壺が展示台に乗せられた。口の直径は60センチメートル以上、高さは80センチメートルはありそうだ。
  主催者が出展品の説明をする。
  「古代ギリシアの紀元前5世紀の陶製の壺で《友情の壺》と呼ばれるものです。
  側面には、《イーリアス》に登場するアキレウスとパトロクルスの絵が描かれています。
  壺の製作を発注した者は、親友が死去したことを深く悲しみ、そこに自分の涙をいっぱいにためて、親友の墓の傍らに埋めたといわれています。
  では、入札額は2万ユーロから始めましょう」
  人気がある有名な壺らしく、またたくまに競り値は5万ユーロを超え、10万ユーロに達した。


  フランソワは壺に何やら強い魅力を感じたらしく、強気で競りに参加していった。そのうち「何としても壺を手に入れたい」とむきになった。カトリーヌがフランソワを止めようとしたが、競り値の吊り上げをやめなかった。
  15万ユーロを超えると、入札者の数はいっきに減った。それでも競り合いは続き、1万ずつ競り値は上昇していく。競り値が上がるたびに入札者は減っていって、ついにフランソワと初老の紳士との2人になった。
  その紳士が19万の声を上げたとき、すかさずフランソワは「20万」と叫んで、落札した。競合者は、20万ユーロという額を聞いて諦めたようだ。

  ところが、あまりの高額のせいか、会場は一瞬静まり返った。
  20万ユーロは、当時のレイトで約3000万円超。売れる見込みがなければ、相当に危険な投資、いやむしろ大きなリスクがともなう投機=大ばくちである。
  しかも、実際の支払金額は、手数料や付加価値税、さらに運賃を含めて22万8700ユーロ。大変な金額だ。
  オークションからの帰り道でカトリーヌがフランソワを問い詰めた。
  「ねえ、売れる見込みがあるの? あんなに大金をはたいて。
  運転資金が逼迫して、店の経営が圧迫されてしまうわ。銀行だって融資にさいして(信用貸しで)厳しい態度に出るわよ!」
  「あの壺は俺自身のために買ったんだ。まあ、衝動買いだ。誰にも売らない。資金繰りは大丈夫、何とかするよ」
  「あなたがあまりに高額な買い物をするから、私はほしいものを入札し損ねたわ。1930年代のアール・デコ調のランプを」と嘆息した。
  けれどもフランソワは軽く受け流してしまった。壺を手に入れた高揚感に浸っているようだ。負けず嫌いで自己中心的な性格がそのまま入札で発揮されたのだ。

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