さっそく翌日から、フランソワはブリュノ同行で「友だちづくり」「友人探し」に挑戦することになった。
最初にフランソワが挑んだ試みは、幼なじみの同級生を訪ねることだった。
「あいつとは子どもの頃仲が良かったんだ。今でも会えば、すぐに友情を復活できるだろう」という甘い読みで、友人探しを始めることにした。
ブリュノ車で幼なじみの家に向かった。その男は妻と買い物に出るところだった。
フランソワは、だが、級友宅をわざわざ探して訪ねるという形を取りたくなかったので、ショッピングモールで偶然再会したような体裁を取り繕おうとした。
ということで、店のなかで幼なじみに偶然出会ったように装って話しかけてみたが、相手にされなかった。もう一度、今度は店の外で親しげに話しかけてみた。
「どうしたんだい。ぼくとはあんなに仲良しだったじゃないか」と。
すると、「お前と俺が仲が良かっただと。ふざけるな、おれはお前が嫌いだったんだ!」と追い返されてしまった。
落ち込んでいるフランソワをブリュノは慰めた。
「幼なじみと久しぶりに会って友情を温め合うというのは、得てしてうまくいかないものさ。過去の付き合いへの思いは人それぞれで違うのさ」と言って、今度は別のやり方で友だちづくりを試みることにした。
それで次は、公園で愛想よく見知らぬ人に話しかける訓練をすることにした。ブリュノの持っている雰囲気や気さくな話しかけ方を習得するためだろう。
けれども、物堅そうなフランソワが話しかけると、人びとは警戒感をあらわにして逃げるように去ってしまう。持って生まれた雰囲気なのか、それとも仕事や日常生活で身につけた雰囲気が人びとに警戒感を呼び起こすのか――この人、何かきつそうだなと感じさせるようだ。
ますます落ち込むフランソワ。
ブリュノはそこで、2人でサッカーの試合を観戦することにした。
サッカー球戯場に行って対戦する両ティームの激しい攻防に手に汗握り、声援を送った。大声で叫んだり、身を震わせて興奮したりということは、フランソワとしては――大人になってからは――はじめての経験だったようだ。
観戦後、夜になるとフランソワは両親の家での夕食にフランソワを誘った。
ブリュノの両親はフランソワの訪問を歓迎した。大きな理由が、2つあるようだ。
1つには、事業に成功している経営者然として、上品で高尚な物腰のフランソワが息子の友人となったいることを喜んでいるのだ。高尚な人物を友だちにすることができたと。
もう1つは、一見外交的で誰にでも親しげに接しているブリュノが、じつは友人を持たない孤独な生き方をしていることを心配しているらしいのだ。
他方、友人探し、友人づくりに失敗続きのフランソワとしては、ブリュノと親しくなり、しかも自宅に招待され両親を紹介されて夕食まで誘われたことがうれしくてならない。
両親とあいさつしたあとで、しばし座をはずしてカトリーヌに携帯電話を入れた。この感動と満足感を、賭けの相手に自慢気に伝えたいというのだ。
「俺にだって親友はいるんだぞ。今、両親に紹介されて、夕食に誘われているんだ。どうだい」と。
フランソワは、ブリュノと両親から温かく歓待され、話が弾んだ。そして、会話のなかで、ブリュノの祖父の持ち物だった古い机が話題になると、鑑定を申し出て高く評価し買い取った。
あとでブリュノといっしょに古机をフランソワの家――倉庫代わりの一室に――運び込むときに、ブリュノからそれほど価値のあるものかと尋ねられた。
「価値のないありふれた古机だよ。君はぼくの友だちだから、君の両親を喜ばせたかったのさ」と打ち明けた。
だが、それを聞いたブリュノは「それはよくない。それでは、金でぼくの歓心を買うということになるじゃないか。友情とは、そういうものじゃないよ」と反論した。