そのとき、フランソワが駆け寄って来た。
「ねえ、ブリュノ頼むよ。俺に人と親しくなる方法、友だちになる方法を教えてくれ。金は払うよ」と頼み込んだ。
「金なんかいいけど、教えてくれった何だい、それ?」とブリュノはいぶかしがる。
フランソワは、初対面の誰にでも話しかけて親しげに会話し、手助けすることができるブリュノの姿に感動したらしい。つまり、誰とも以前からの友だちのように接することができ、相手もすぐに打ち解けて心を開いてくれる、そういう特別な雰囲気というか接し方を身につけているように思えたのだ。
フランソワは何とかブリュノを口説いて、翌日――たぶん休日――からブリュノと行動をともにして、友だちづくりの方法を学ぶことにした。そんな頼みごとを頼むフランソワもなかなかのものだが、戸惑いながら引き受ける方もなかなかのものだ。
あの変な――本当の友だちがいるかいないかという――賭けをしてから、フランソワは友人づくりに必死に取り組んでいた。もちろん、賭けに勝つためなのだが、いく分かは「自分に欠けているもの」を習得しようという気持ちがあるのかもしれない。
ところで、パリの中心部に自宅のほかに店舗やギャラリー倉庫を確保しているくらいだから、フランソワは経済的には成功者だ。人は信頼が置けない者に骨董品を売ったり、まして買ったりはできないものだから、フランソワは商売絡みでは人との接し方に如才はないし、説得力もあるわけだ。
だが、いつも仕事のことばかり考えている。というよりも、好きなことに没頭して仕事にして大きな収入を得ている。だから、言うことはない人生のはずだった。
だが、ビズネスライクな付き合い以外の人間関係では、結婚も娘との関係も、友人づくりも、うまくいかない――まあ、たいていの男はそういうものなのだろうが。そのことに気がつき、悩み始めたのだ。
書店に行って『友だちのつくり方』という本を購入しようとしたり、「友情(友人づくり)を考える」というテーマの講演会に参加したりして、涙ぐましい努力を始めた。だが、うまくいかない。
そんなときに、警戒感を抱かれずに誰にでも親しげに話しかけて、相手の素直な反応を引き出してしまうブリュノに出会った。そこで、ひらめいたのが、ブリュノなら友だちづくりのコツを知っている、だったら彼に教わろうという考えだったわけだ。