フランソワにとっては、「友情の壺」が壊れてしまい総額22万ユーロにのぼる損害を被ったことよりも、自分がブリュノの友情と信頼を裏切ってしまったことの方が、はるかに大きな衝撃・ダメイジだった。もちろん、大きな損失を被ったため古美術商としての地位を失うのは仕方がないと諦めた。ギャラリーの資産に大きな欠損をもたらしてしまったのだから。
彼は、この損害を穴埋めするために、取引銀行に担保として預けてあった古美術店の株式持ち分を、ギャラリーの共同経営者のカトリーヌに引き渡すことにした。つまり、カトリーヌが単独で支配することにして、損害賠償をしようと考えたのだ。
この方針をカトリーヌに伝えたところ、意外な答えが返ってきた。
「壊れた壺は模造品よ。先日、通関手続きに手間取ったと言ったけれど、嘘だったのよ。
精巧な模造品をつくらせていたの。代金の支払いが遅れた場合に銀行に本物を差し押さえられないようにするためにね。だから、本物の壺は無事なのよ。
あなたが、この店の株式持ち分を手放す必要はないわ」
フランソワは経営的には一安心したのだが、ブリュノの友情を裏切ってしまった自分には失望していた。だから、壺を手放すことにした。
しばらくして、テレヴィ局の取締役、アンリ・ドゥラモントのもとに「友情の壺」が届けられた。
あのオークションで「友情の壺」をめぐってフランソワは最後まで競い合った相手がドゥラモントだったのだ。フランソワが20万で落札したあとも、ドゥラモントは「言い値で引き取るから売ってくれ」と迫ったが、フランソワは拒否していたのだ。
だから、「友情の壺」がフランソワから送られてきたときには、ドゥラモントは狂喜した。
壺の梱包箱には、フランソワから手紙が添えられていた。
「私はこの壺の持ち主としてふさわしくないことに気づいた。そこで、ふさわしい持ち主、貴殿に引き渡そうと決めた」と。
ドゥラモントは、すぐにフランソワに譲渡価格を聞くために電話した。
「運送費を含めた原価でいいよ」
「いやあ、君は私の「友だち」だ。何か望みあはあるかね。かなえてあげよう」とドゥラモントは、申し出た。ずい分簡単に「友だち」というものはできるものだ。が、心からの切望を叶えてくれる者は誰でも、「友=味方」と認めてもらえるものなのだろう。
「いや、私はあなたの友だちではないよ。だが、1つだけお願いがある」
と言って、フランソワが切り出した頼みごととは、・・・
フランソワのドゥラモントに対する頼みごとは、ブリュノをテレヴィ番組「クイズ・ミリオネア――日本風の番組名にすると《クイズ・誰でも大金持ち》とでもなろうか――」に出場させてくれというものだった。フランソワが、せめてもの償いになればということで、ブリュノへの贈り物代わりにしたことだった。
そこにいたった経緯を見ておこう。