ところで、潜水艦の推進装置についてですが、スクリュウ=プロペラは大きなエネルギーによる回転運動ですから、大きな水の波動=振動を引き起こすことになります。
つまり、巨大な音源になるわけで、その特有の水中音響が、敵に艦の存在位置を察知させてしまいます。
これに対して、レッドオクトーバーに搭載されている、「キャタピラー」と呼ばれる無音推進装置は、超伝導によって生み出された強力な磁力線(電磁波)が無数の水分子を一定方向に運動させ、大規模な水流をつくりだして潜水艦を駆動させるようです。
たしかに、プロペラ特有の回転運動による波動=振動をともなわないため、ソナーにはきわめて感知されにくいということはいえます。
とはいえ、巨大な船体が、その体積分の水を押しのけて水中を動くのだから、それによる水密度の粗密波=振動や大がかりな水流を引き起こします。きわめて波長の大きな疎密波を呼び起こします。
したがって、これらの運動がもたらす音響効果を特定すれば識別可能となるでしょう。
この推進装置は、艦体前腹部の取水口から大量の海水を取り込み、それを艦体後方の排水口から放射するものです。いわば、回転運動のない水中の大型ターボジェット推進装置ともいえるでしょう。
音の小ささよりも、潜水艦の推進アイディアとしての画期性に驚くべきでしょうか?
ところで、レッドオクトーバーの200mを超える巨大さは、ソ連の軍事技術の優位ではなく、大きな劣位を物語っているのです。
というのは、この巨大化の原因は、ソ連のコンピュータ・電子制御機器などの装置がマイクロエレクトロニクス・テクノロジーの悲惨な立ち遅れなのですから。要するに、コンパクト化できない(大型化が避けられない)という根本的欠陥なのです。
隠密行動を旨とする原潜のサイズが大きくなれば、弱点ははかりしれません。
水中で占める空間の大きさ、放出する各種エネルギーの大きさ、機敏な動きの制約、鋭敏な危険回避行動の限界などが原因で、敵に存在を察知されやすくなり、攻撃目標としては的が大きくなるのですから。
また、ソ連のコンピュータ・テクノロジーの後進性・弱点は、この作品では、船体運動を制御するためのシステムが、数値管理( numerical control )用の演算システムと自動的に連動しないところに現れています。
レッドオクトーバーの天才的なパイロットナヴィゲイター(航法士)、カマロフは航路計算のために、日本製の小型電卓を使用していました。
わずか数メートルの誤差も許されないような、曲芸的で正確無比の航路設定の演算は、ソ連製のコンピュータではできないということです。
日本製の小型電卓で算出した数値を、船体制御用数値の入力係に指示していました。
つまり、きわめて精密を要求する数値管理システムは、システム自体の自動アルゴリズムやリンクではなく、外部入力に依存しているわけです。少なくとも、スペイスが限られた潜水艦に組み込めるように小型化することはできなかったという事情を物語っています。
これは、当時のソ連の機械テクノロジーの欠陥としては、軍事技術研究者や事情通には明白な事実でした。
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