ところが、ライアンが艦長の説得に手間取っているとき、レッドオクトーバーは急停止し、右旋回しました。 後方の敵の接近の有無を確認する行動に入ったのです。
この行動は、ソ連原潜がしばしばおこなう後方探索のための動きで、「狂ったイワン(crazy Ivan)」と呼ばれています。
おそらく、きわめて危険な潜水艦の運動なので、「気がふれたロシア人」と言われるのでしょう。
ライアンは、山勘でこれを言い当ててマンキューソを信頼させて、レッドオクトーバーとの交渉に踏み切らせました。
レッドオクトーバーはふたたび前進を始めます。
そのすぐ後ろについたダラスは、標的までの魚雷軌道解を発射制御用コンピュータに設定したうえで、意図的に大きな音響が出るように魚雷発射管の扉を開きます。
ラミウスたちは、後方にロサンジェルス級のアメリカ原潜が接近し、魚雷攻撃の準備を完了したことを感知しました。
ここで、ラミウスの次の行動が攻撃を予測させるものならば、ただちにダラスは魚雷攻撃を仕かけることができる状況下で、マンキューソは相手の出方を見たのです。
冷静なラミウスは海面直下まで浮上し、潜望鏡で相手の様子を観測することにしました。
ダラスも同じ行動をとります。そして、セイルの通信塔のライトの点滅でモールス信号を送り、亡命の意図を問いただします。
「貴艦に合州国攻撃の意図ありや? それとも、亡命を望むや? 返答は探信音で・・・」
ラミウスは、「攻撃の意図なし。亡命を望む」という答えを、探信音の発射で返しました。
しかし、ソ連側に亡命の事実を察知されずに巨大な潜水艦もろとも士官全員を亡命させるのは、至難の業です。レッドオクトーバーは海底に沈んだことにしなければなりません。
しかも、探索をあきらめるほど深い海底に。
ライアンは、マンキューソをつうじてラミウスと交信させ、ソ連の裏をかいて亡命を成功させる方策を打ち合わせます。
およそ10時間後、さらに南下したローレンシア海溝の北端、グランドバンクで両艦が落ち合うことにしました。
こうして、北大西洋を舞台にした大がかりな軍事的コンゲイムのクライマックスがやって来ることになります。
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