とはいえ、無数のソナーブイが漂う海域です。まもなくソ連の対潜水艦攻撃(雷撃)機に発見され、魚雷攻撃を受けることになります。
当然、魚雷はホーミング、つまり自動探信追尾式です。
レッドオクトーバーは海底峡谷のなかを全速力で逃げます。そして、柱状の岩塊の直前、あとわずか数メートルというきわどい地点で急転右旋回(左エンジン最大、右エンジン逆動最大)して、魚雷をかわしました。
魚雷は直進して岩塊に衝突、爆発しました。こんなしゃれた芸当が実戦で可能かどうかは知りません。
とにかく、当惑する若き天才航法士カマロフをさしおいて、艦長自らがタイミングの計算と指示をおこなったのです。
海中の入り組んだ海底地形のなかで、わずか数メートルの誤差さえ許されない操舵と船体制御をとっさにできるほどの天才、それがラミウスなのでしょう。
副長ボロディンは、クルーが重苦しい不安に駆られている様子を懸念ます。
が、ラミウスは「その方が都合がいい」と言って、クルーを艦外へ退避させる作戦=トリックが浮かんだことを告げました。
このための準備にかかったところで、ダラスの追尾とコンタクトを受け、亡命の意図の確認を求められたのだった。
フィクションだから、物語の展開が万事都合よくできていますねえ。
ローレンシア海域にさしかかる頃、レッドオクトーバーの艦内では、前部機関室付近で原子炉トラブルによる放射能汚染の警報が鳴り渡ります。
しかも通気遮断装置も故障したため、前部隔壁を下ろしたものの、艦内全体に低度の核汚染(レヴェル1)が広がった模様です。
それは、ラミウスが仕かけたトリックです。
破壊工作という事実を巧妙に利用して、艦内核汚染という「偽の理由」をでっちあげてクルーを退避させるというわけです。そう、これが、ラミウスの策略だったのです。
「事故は破壊工作が原因です。艦長、総員退避しかありません」と叫んだのは、艦の専属軍医のペトゥロフです。
ペトゥロフの配役は、あのティム・カーリー。
まじめ一徹の実務家、専門家の(あるいは職人肌の、というべきか)ロシア人をやらせたら、彼がダントツ。
ペトゥロフの意見を副長ボロディンが強く支持します。
艦長はやむなく(という表情を演じて)、浮上と救命ボートでの総員退避を命じます。船体上部を海面にのぞかせたレッドオクトーバーの各ハッチが開けられ、クルーが甲板に集合、救命ボートを広げました。
ところが、それを見計らったかのように(綿密な亡命作戦を立て、まさにタイミングを見計らったのだが)、水平線にアメリカ海軍のフリゲイト艦(高速駆逐艦)が現れ、急速に接近してきます。
ラミウスは「私と士官団は全員艦に残り、アメリカ海軍から逃げ、自沈する」とドクター・ペトゥロフに告げます。
ペトゥロフは感激し、「それこそ、レーニン賞に値します」と賞賛し、艦を後にします。