折しもそのとき、補佐官ペルトはソ連大使を呼びつけて問い詰めていました。
ペルトは矢継ぎ早に問いかけます。
ソ連海軍のこの大がかりな急展開はどういうことだ、
ソ連哨戒機はラブラドル沖からアイスランドまで、無数のソナーブイを投下しているではないか、
これは開戦(海戦)の準備か、と。
大使はどうやら事情をほとんどまったくつかんでおらず、本国から到着したあまり当てにならない理由(虚偽が見え見えの)をしどろもどろに伝えました。
いわく、
原潜1隻が遭難し行方不明になったのだが、それには共産党指導部のメンバーの子息が乗務している。そこで、海難捜索と人命救助のための出動だ、と。
ペルトは笑いをこらえながら、目いっぱいの同情を見せて、アメリカ海軍の支援・協力を申し出ます。
が、自身、事態の成り行きに不審を抱いている大使は、丁重に断りました。
ペルトと大使のやり取りは、この映画のしゃれたウィットを示す格好の場面の1つです。
ペルトは、ソ連海軍の慌てふためいた動きから、ラミウス率いるレッドオクトーバーは亡命を企図しているのは、ほぼ確実のようだと判断しています。しかし、そんなソ連の窮地を知らぬふりで、大使を責め立てているわけです。
駐米ソ連大使といえば、ソ連はおろか、世界中の外交官のなかでもエリート中のエリートです。出世競争を勝ち抜いた業績顕著なソ連外交官が、定年間際になって、最後にようやくたどり着く最高のキャリアなのです。
そのスーパーエリート、しかもペルトの父親に近い年齢の大先輩に向かって、ペルトは、ライアンに命令するときのように「ぶっちゃけた」乱暴な話し方で噛みつくのです。相手の苦境を知り抜いているのに。
「これはまた、じつに遠慮(忌憚)のない物言いですな」と大使は驚きたじろぎます。エリート外交官は、今までにこんな乱暴な物言いをされたことがないのでしょう。
ペルトからとっちめられた大使は、この事件の最大の被害者のようです。
大使館に戻った大使は、(おそらく翌日)ふたたびペルトを訪ね、苦渋に満ちた顔で頭を下げることになります。
「原潜レッドオクトーバーの艦長ラミウスが精神に異常をきたし、アメリカを先制核ミサイルで攻撃すべく、北大西洋を南下している。
そこで、アメリカ海軍にも、この艦の探索と撃沈に手を貸してほしい」
という本国の要請を伝えるためです。