恐慌をきたしたソ連海軍の動きから、レッドオクトーバーは亡命の意図でアメリカに接近しているという事情の状況証拠は揃いました。
しかし、他方で、ソ連当局が言うように、艦長の暴走による先制攻撃の危険がまったくないわけではありません。
アメリカ大統領府は海軍に、ラミウス艦長とのコンタクトがとれるまで、レッドオクトーバーの東岸部への接近を、破壊=撃沈という手段をも含めて、あらゆる手段で阻止せよと命じました。
そういう対策をとらないと、亡命の企図をアメリカがつかんでいるのではないか、という疑念をソ連側に持たれてしまうでしょうから。
ただし、裏に隠された作戦の中心はこうです。
アメリカと相当程度離れた海域で亡命の意図の確認をして、ソ連との外交上・安保上のトラブルを発生させない方法で、亡命を成功に導く努力は最優先に進めよ、というものです。
ただし、それは最高軍事機密で、大統領側近と補佐官、軍とCIAの最高首脳、ライアン博士のほかには伝達されることはないようです。
こうして、海洋軍事史で最大最高のコンゲイム(騙し合い)が展開していきます。
ライアンは空母に着艦してまもなく、こんどは荒れ模様の海上を、潜水艦ダラスまで飛行することになりました。
彼は空母から発進したヘリコプターに乗って、ダラスの浮上地点までやってきました。
が、そのとき、ヘリの残燃料はすでに帰投用分さえ使いかねない状況でした。
ヘリはライアンを救命用ロープで吊り下げますが、大嵐のなかでひどく揺れたため、安全な着艦ができそうもありません。
ヘリ操縦士は、あきらめて引き返そうとします。その動きを見て、ライアンはロープのフックを外して海面に飛び降りました。
このシークェンスでは、ヘリの高速回転翼の運動は、大きな静電気(数万ヴォルト)を発生させ、近くの人間が感電死する危険があることを、観客にうまく伝えています。
場所は北極圏間近の洋上で、水温は4℃、数分で死亡する状態です。
落下するライアンを見て、ダラスは救難態勢をとります。ライアンはどうにかダラスの潜水員に救助され、艦内に運び込まれました。
ところが、レッドオクトーバーと接触をはかるようにというライアンの説明を、マンキューソ艦長(skipper)は受け流します。しかも、艦長は、海軍司令部からのレッドオクトーバーの阻止・撃沈命令をたった今受信したことを伝えます。