それにしても、コノヴァロフは意図してレッドオクトーバーの脇をかすめるように、第一撃の魚雷を発射したのでしょうか。
だとすれば、トゥポレフは自信過剰のあまり、わざわざラミウスにコノヴァロフの存在を気づかせて、決闘を挑んだということでしょうか。
その直後、コノヴァロフは第2波の魚雷攻撃をかけてきました。
ラミウスはライアンを操舵席に座らせ、魚雷に向かって全速前進を指示します。
一見自殺行為に見えますが、コンピュータの軌道計算にもとづいて起爆(点火)タイミングを設定された魚雷に対する回避戦術のようです。
というのは、追尾とは逆に、高速で接近してくる目標物体に対しては、距離が大きく縮まることで、設定された起爆タイミングとの誤差が大きくなり、目標との衝突の瞬間に爆発することができなくなるからです。
魚雷をやり過ごしたそのとき、司令室内部で銃声が響きます。
潜んでいたKGBの工作員がラミウスをねらって発砲したのです。が、間一髪でラミウスを庇ったボロディンが被弾してしまいました。
胸を撃ち抜かれた副長は、命を落としてしまいました。ラミウスは腕の軽傷で済みました。
マンキューソらの反撃を受けた工作員は、魚雷室に逃げ込み、魚雷の炸薬信管の回線をショートさせ、艦の自爆を企んでいるようです。
ラミウスはライアンとともに工作員を追跡。魚雷室のなかで、ライアンは工作員の背後に忍び寄り、ショート寸前に射殺しました。
さて、艦の指揮を引き継いだマンキューソは、コノヴァロフの第3次攻撃に備えて、全速急旋回を試みます。
コノヴァロフは今度は、はじめから点火して魚雷を発射してきました。衝撃を受ければ即爆発するはずです。
魚雷はレッドオクトーバーに接近してきます。
レッドオクトーバーは対抗弾を発射します。対抗弾とは、振動や泡を放出するように破裂する金属弾を発射して、艦から遠い場所で音波を発し、魚雷のセンサーを攪乱(失探)させて引き付け、追尾の軌道をそらせる対抗策です。
こうして一度は魚雷を失探させたましが、ふたたび魚雷は旋回してレッドオクトーバーを追尾してきました。
そのとき、魚雷の前方をダラスが高速で横切り、全速浮上、海面ダイヴを試みます。ダラスはクジラのようにダイヴします。
その姿は、艦上のソ連クルーから見れば、ラミウス艦長がアメリカ原潜を海面に追いつめたかのように見えます。
「艦長は最後の力を振り絞ってアメリカ原潜と戦っている!」 彼らは、レッドオクトーバーに声援を送りました。
海面下では、レッドオクトーバーは旋回を続け、コノヴァロフの正面に回りました。そして、コノヴァロフめがけて直進し、すれ違うように脇を抜けました。
すると、レッドオクトーバーを追尾していた魚雷は、正面に新たな目標、コノヴァロフを見つけて衝突し、大爆発を起こしました。
この大爆発の衝撃は海上に達して大きな水柱と泡(水中のきのこ雲)をかき立てて水面を盛り上げました。
艦上のソ連クルーは、レッドオクトーバーが撃沈されたものと思ったようです。嘆く者、祈る者、天を仰ぐ者……、だれもがラミウスと士官たちを悼みました。
彼らこそ、まぎれもなく公式上、レッドオクトーバー撃沈の目撃者=証人だったのです。
ソ連海軍にラミウスとレッドオクトーバーが消滅したと思わせる、このトリックは成功しました。
レッドオクトーバーはその後、合州国メイン州のある入り江(河口)に移され、アメリカ軍による調査研究の対象となっったようです。