サンジャックへの道 目次
原題について
見どころ
予備知識として
聖ヤ―コブ伝説
奇蹟の伝説と巡礼風習
あらすじ
不仲の3人兄妹弟
出発地のルピュイ
道連れの面々
何も持たないクロード
現代フランス人の旅
「やれやれ」な旅立ち
余計な重荷は捨てるしかない
「余計なもの」を捨てる旅
人生は重荷を背負った上り坂
クロード
ラムジ
カミユ
マティルド
ギュイ
人生の出会いと交錯
「原則」とリアリズム
道連れ、そして仲間意識
ラムジの境遇
課題を見つけたクララ
ラムジの学習
「薬漬けの日々」からの脱出
聖職者たち
聖職者も人間・・・
誠実な神父もいる
強欲で罰当たりな司祭
聖地まで歩き続けるぞ!
虚栄で流行を追う者
寄せ集め国家の不協和音
仲間は兄弟、助け合うもの!
聖地巡礼で得たもの
クロードの酒気を抜け
巡礼旅の終わりに
エピローグ

余計な重荷は捨てるしかない

  結局、背負っている荷物が重い人ほど、抱え込んでいる俗念や欲望、心配事が多いということでしょうか。
  参加者全員が歩き出して3時間もたたずに疲労困憊してしまいました。無理もありません。
  ルピュイからの旅は、いきなり山岳地帯を昇り続ける旅となるのですから。
  結局、正午よりも前に休憩をとることになりました。みんなが車座に座って給水とか一息入れることになったのです。

  ところが、足を止めて休憩ということで参加者が寄り集まれば、ピエールとクララ、クロードが口論、諍いを始めることになります。
  とくにピエールは、会社の権力の頂点に居座る立場ゆえか、言い方が横柄です。なにしろ、周りは部下だけという世界にいて、いつも「上から目線の命令」が当たり前で、しかも仕事中毒になっているのですから。仕事中毒はまた、会社での地位=権力の座に中毒になっているということでもあるようです。
  だから、参加者の多くはピエールを反発毛嫌いすることになります。
  ピエールは、こうして孤独な「裸の王様」状態になってしまいました。

  ところで、エルザも重すぎる荷物を背負っています。
  彼女の両親は離婚してしまい、彼女は母と暮らしています。大金持ちの母で、とにかく娘に物を与えたがる。それが愛情の表現だとばかりに。
  というよりも、相手からの感謝を期待してやたらに物を買い与える以外には、愛情の表現や伝達のすべを知らないというべきでしょうか。

  今回の旅でも、ザックに高級ブランドの化粧品やらドライヤー、装身具を詰め込んで送り出しました。
  そのうえ、娘の携帯電話にしょっちゅう電話を入れて、「必要なものはない? 手荷物便で送るわよ」とお気軽に「余計なお世話」をしてくる始末。
  エルザは背負った荷物の重みに苦しんでいるのです。
  というわけで、翌日、しんどい昇り道の途中で道を外れて、ザックから余計な荷物を取り出して捨ててしまいました。
  そもそも巡礼は「便利さや快適さ」に背を向けて歩き通す旅なのですから。

  若い彼女にしてからが、重い荷物に苦しんでいるのです。
  まして50歳を過ぎているピエール。普段は通勤・異動すべて高級車での送迎、家でも家事はすべて家政婦がやってくれます。運動不足の塊みたいな生活なのです。
  しかも、金があるから豪勢な食事が普通です。見かけはスマートですが、筋肉はブヨブヨぜい肉に変わり、コレステロールだらけの高脂血体質で、血糖値も高い。毎日、大量の薬剤を飲む生活です。社会的地位に応じた生活は、生活習慣病への近道でもあるようです。

  そんな男が「便利で快適なグッズ」を詰め込んだザックを背負い続けているのです。まして昇り道が続く悪路を歩くのです。
  一行の最後尾を何とかついていくのですが。
  ピエールは、巡礼旅を提案した母親を呪いたくなりました。

  そんなとき、道から外れた草原にエルザが捨てていった物品の塊が見えました。
  「!」とばかりに、ピエールもザックから余計な荷物を取り出して投げ捨てました。
  経済的には成功したピエールですが、人生では思い荷物を背負っているようです。
  彼が仕事中毒で家庭を顧みなかったせいか、美しかった妻は孤独に耐えかねてかアルコール依存症になって、しかも強い自殺願望を抱くようになってしまったのです。だが、そんな妻をピエールは深く愛しています。
  「成功の代償」は大きかったようです。

  心を病んでいる妻が心配でたまらないピエールは、過酷な旅の空の下でも、携帯電話がつながるところからつねに妻や家政婦に電話して「飲み過ぎてはいけない。身体に気をつけろ」と忠告する始末。
  そのうえ、会社の経営管理が心配で、側近のロベールに電話して経理や製造計画、財テクの課題を指示しています。彼にはレジャーというべき時間がないようです。仕事にしがみついて、苦悩や不安を紛わせているのかも。もっとも、無数の企業が生き残り過当競争をしている現代社会で、ワンマン経営者としてやっていこうとすれば、部下を信頼して経営に関する権限移譲をするとか分業することができなくなるのかもしれません。

  だが、遍路道はだんだん辺鄙な場所深く入り込んでいき、とうとう、電話ができるのは週に1度あるかないかになっていきます。

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