サンジャックへの道 目次
原題について
見どころ
予備知識として
聖ヤ―コブ伝説
奇蹟の伝説と巡礼風習
あらすじ
不仲の3人兄妹弟
出発地のルピュイ
道連れの面々
何も持たないクロード
現代フランス人の旅
「やれやれ」な旅立ち
余計な重荷は捨てるしかない
「余計なもの」を捨てる旅
人生は重荷を背負った上り坂
クロード
ラムジ
カミユ
マティルド
ギュイ
人生の出会いと交錯
「原則」とリアリズム
道連れ、そして仲間意識
ラムジの境遇
課題を見つけたクララ
ラムジの学習
「薬漬けの日々」からの脱出
聖職者たち
聖職者も人間・・・
誠実な神父もいる
強欲で罰当たりな司祭
聖地まで歩き続けるぞ!
虚栄で流行を追う者
寄せ集め国家の不協和音
仲間は兄弟、助け合うもの!
聖地巡礼で得たもの
クロードの酒気を抜け
巡礼旅の終わりに
エピローグ

「薬漬けの日々」からの脱出

  さて、この旅に来る前、ピエールは側近の運転手が運転する高級車で移動する毎日を過ごしてきました。
  重い荷物を自ら持つこともなく、1キロメートルと歩くこともない生活。
  そして、肉体的な負荷がなく、上等な料理と仕事中毒のストレス。コレステロールをため込み、血糖値を上げていく生活スタイル。
  エリートの生活だといえますが、体力と健康を損ねていく「下り坂を転げ落ちていく道」でもありました。
  だから、コレステロールや血糖値、血圧を下げる薬を食事のたびに何錠も飲む毎日だったのです。
  巡礼の旅に出てからも、はじめのうちは薬漬けの暮らしでした。

  ところが、荷物の量を減らすために便利グッズを捨てたときに、いっしょに薬剤も捨ててしまいました。
  それでも、とにかく難路を歩くことに必死で薬を飲むことを忘れていました。仕事からも離れて、筋肉を使い汗をかく毎日。しかも、辺鄙な田舎で地場の食材を使った食事。だから、薬をの飲まなくても体調は悪くならなかったようです。

  はじめのうち、ピエールは薬を飲まない生活を怖がったのですが、仲間たちからは、「飲むのを忘れていても平気だったのだから、もう大丈夫だよ」とか、「薬に頼る生活から離れてみるのも、健康にとって大切なことよ」と説得されました。
  そして気づいてみれば、とにかく歩くことに集中していたので、いつのまにか薬に頼ることを忘れていました。
  そして、もちろん難路を歩く疲労はたまってくるけれども、筋肉を使って血流を向上させ、汗をかいて新陳代謝を高めていく毎日。体調はみるみるよくなってきていていました。

  会社の経営――生産販売計画やら税務やら社会保険税の計算――やら妻のことやら、気にはかかるようです。が、連絡も取れなくなった今は、とにかく歩き通そうとことで頭の隅に追いやっていました。神経をすり減らしてストレスをため込むことはなくなりました。
  つまりは、ストレスの原因をあらかた、この旅のなかでは投げ捨ててきたのです。ストレスの原因が減れば、心理も平穏になり、言葉遣いも穏やかになっていきます。
  はじめはピエールの権高で横柄な物言いにあきれて、遠巻きにしていた参加者とも親しげに会話しながら歩くようになりました。

  顔を見るたびに角突き合わせてきた妹や弟とも、普通に会話できるようになっていました。
  もちろん、まだ「わだかまり」は消えていません。しかし、もう見下すことはなくなったようです。極限ともいえる遍路生活では、貧富の格差や社会的地位の上下はほとんど意味は内のですから。
  ここでは、資産や地位という要素を捨てた「巡礼者」の1人にすぎないことを受け入れたのです。当然こととして。

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