3か月間近くのあいだ難路を歩き続け、そして苦楽をともにする体験というものは、人びとに何かを発見させるらしいですね。
あるいは、悟りを啓くということかもしれなませんが。
そのなかでも、あまり変化を見せないのが、クロードです。
もともと何ひとつ荷物を準備・用意せずに、遺産ほしさに巡礼に臨んだわけですから。
彼には捨て去る物がなかったのでしょう。何も捨てなかったのですが、得るものもあまりなかったのかもしれません。
集落を通るたびに酒場に入り浸ってしまう習慣は変わりません。そして、金がないので、仲間の誰かが迎えに来るのを待って、その場を言い繕って酒の代金を払ってもらうことになります。
自立心に乏しい態度も治る見込みがないように見えます。クロードに好意を持っていたマティルドも、ついに愛想を尽かしました。
ところが、ある街を通ったとき、クロードの姿が見えなくなりました。水の補給のために休憩したとき、一行はクロードがいないことに気がつきました。
「また酒場だよ、きっと」誰もが知っているのです。
ギュイが気づかって迎えに行きました。当然、酒代も払うことになるのですが。
ところが、十分に水分を取らずにアルコールを摂取したクロードは、歩き出そうとした瞬間に倒れてしまいました。ギュイはクロードを担いで道に連れ出しました。
それを見たピエールとクララが駆け寄って、両側からクロードの方を支えて歩き出しました。クララとピエールの荷物は仲間が分担しました。
兄姉としてクロードを何とかしなければ、と2人は思ったようです。
それからは、町や集落を通るたびにクロードが酒場に向かおうとすると、クララとピエールが注意や警告を発してクロードを酒から遠ざけようとしました。
2人の真剣な態度を見たクロードは、酒を断つようになりました。アルコール依存症との闘いでは、やはり兄弟の言葉が役に立ったようです。
あれやこれやあって、ついに一行はサンティアーゴ・デ・コンポステーラに到着しました。
そこには、巨大なオブジェの記念塔が建てられていました。ラムジは喜びいっぱいにオブジェに駆けのぼりました。カミユとエルザが後に続きました。
だが、サイードは暗い顔つきでした。
カミユの携帯電話で自宅に連絡したところ、ラムジの母親が病死したことを知らされたからです。
結局その日は、悲しすぎる事態をラムジに伝えることができなませんでした。
サンティアーゴの大聖堂・修道院で巡礼旅の完遂を祝福する行事(祈祷)がおこなわれたり、国営ホテルに泊まり込んだりで、慌ただしいうちにその日は暮れました。
翌朝、一行はサンティアーゴから大型観光バスで海岸まで行きました。遥かに大西洋が広がっています。
ラムジとサイードは波打ち際に行きました。ラムジの母の死は、ラムジ以外の全員が知っていました。サイードは辛い事実を伝えるために、ラムジを浜辺に連れ出したのです。
一行は遠くから、波打ち際での2人の成り行きを眺めていました。
はじめのうち、打ち寄せる波と戯れていたラムジは、サイードから母の死を告げられたようです。混乱し嘆き悲しみました。そして、友の肩にすがって泣きました。
巡礼の旅はここで終わります。