難路ピレネーを越えた一行は、カスティーリャの平原に入り込みました。
その最初の街で、とある教会に食事と一夜の宿を申し込みました。
ところが、夕食の席で司祭は偏見を口にした。
「さて、宿泊を認めることができるのは、肌の色が濃いめの3人の方を除いた方々だけです」
ギュイとラムジ、サイードを泊めないというのだ。人種的にヨーロッパ人ではないからだ、と。
フランコ時代の名残でしょうか。それとも、500年以上もたったのに、いまだにレコンキスタを戦っているつもりなのでしょうか。
あの闘争を指導したのは、そして過酷な異端審問をおこなったのは、一部のイエズス会修道士でしたが。
一行は、強い反感を感じ口々に反論します。
一番憤慨したのは、ピエールでした。
「フランコのファシズムはもう終わったんだぞ。人種偏見や民族差別を巡礼に持ち込むな。
俺たちはみんな苦労を分かち合ってきた兄弟なんだ。兄弟はいっしょにいて助け合うものなんだ。
いつも立派な説教を垂れるくせに、神の普遍的な愛を持ち合わせないのか。口先ばかりの腐れ神父め!
もう頼まない。俺が自腹を切ってみんなをホテルに泊まらせるんだ。あばよ!」
唖然と見つめるのはクララ。あんなに妹や弟を嫌っていたのに、ここで「兄弟愛」を言い張るなんて。
「ピエール、本気なの?」
「聞くな。何も言うな。言いたいことを言わせろ!
みんな高級ホテルに行くぞ。料金は俺が全部請け合う。まかせとけ!」とピエールは先頭を切って出ていきました。
クララ、ギュイ…全員が教会を出ていきました。
最後に出ていったのはラムジです。彼は人を疑うことがないようです。その彼は、別れの挨拶として司祭に神の祝福を与えました。もちろん、イスラム方式で。
「アッラー、アクバル(神の力は絶大なり)」
目をむく司祭。
ピエールが先頭に立って、一行は市内の高級ホテルにチェックインしました。2人ずつで、こじんまりしているが上等なトゥインルームに分宿することにしました。
この3か月近く、まともにシャウワーやバスを浴びていないので、みんな救われたように湯を浴びて、ふかふかのベッドで眠りました。
それにしても、巡礼旅で新たな自分を発見したのか、他人のために自分の財布(クレディットカード)から金を持ち出すことが大嫌いだったピエールが、仲間のために金を使ったのです。