だが翌日、水曜日にはガラードとアンスンは、昨日の測量結果をたずさえてウェイルズの北部に向けて町を出発する予定だった。つまり、2人が町をたてば標高測量は終了ということになって、フュノンガルウの標高は決定されてしまうわけだ。
住民が標高の嵩上げをする努力が無駄にならないためには、2人のイングランド人を嵩上げが終わるまで町に引き留めておかなければならない。
「俺に任せてもらおう」と言い出したのは、モーガンだった。
こういう悪だくみに関しては、彼の右に出る者はいない。誰もが、モーガンの腹黒さに期待した。
モーガンは、町の雑貨屋に「砂糖をよこせ」と要求した。渋る雑貨屋を「お前の吝嗇(ケチ)のせいで、住民の努力が無駄に終わる結果になってもいいのか!」とすごんで、無理やり砂糖1袋をせしめた。
翌朝、イングランド人測量師たちが乗って来た自動車のエンジンがかからなくなってしまった。エンジンルームを調べて、アンスンがいくらスタータークランクを回しても、エンジンは動かなかった。
燃料に混入していた砂糖が燃焼してエンジン・シリンダーの内部を炭化皮膜が覆ってしまったので、発火しなくなってしまったのだ。機械屋ウィリアムズが調べたが、田舎の機械屋には、この時代――つまりガソリンエンジンの車がようやくエリート階級の乗り物になり始めた頃――この最先端技術を理解する知識も技能もなかった。
しかも、あのジョウンズ牧師が人目を盗んで、千枚通しでタイヤに穴を開けた。
エンジントラブルにタイヤのパンク。底意地の悪さでもライヴァルどうしのモーガンとジョウンズが結託したのだ。こうなると、機械屋ウィリアムズの機械工房に運び込むしかない。
そのウィリアムズにモーガンは耳打ちした。
「部品をばらして分解してしまえ。当分動かないようにしろ」
「だがよ、そうすれば俺には組み立てられんよ。仕組みがわからないんだ」
「そうなら、なお結構」
当時、自動車は現代の旅客機並みにとてつもなく高い資産だったはずなのに、モーガンは平気で壊そうとしていた。
一方で、モーガンは2人のングランド人を引き留めておくための別の手段を考えていた。
先日、モーガンの宿から出ていった元メイドのベティ(エリザベス)を呼び戻して、彼女の色香で2人を籠絡しようと考えたのだ。彼女が勧める酒は甘美なのだ。酔いつぶして動けないようにすればいい。
だが、彼女は女癖の悪いモーガンに愛想を尽かし、憤慨して出ていったばかりだ。今頃はカーディフにいるはずだ。
そこで、モーガンは、工場勤めのトミーを使うことにした。
夜勤明けのトミーは、今家に休眠のために戻っているはずだ。この町でモウターバイクを運転できるのは彼しかいない。眠りについたばかりのトミーを叩き起こして、急ぎでカーディフまで走ってもらい、ベティに戻るよう告げてもらおうと考えた。
夜勤明けで疲れているトミーだったが、強引なモーガンの要求――というよりも、じつは脅迫――を飲むしかなかった。トミーはベティを迎えにいくことになった。