ところで戸波健次は、仲間のためにとし子刀自の顔写真を用意しませんでした。
彼の頭のなかでは「おばあちゃん」はつねに強烈な存在感で元気にしていて、だれでも一目見れば「おばあちゃんや!」とわかると思っていたのかもしれません。
刀自が山歩きを決めた日、正義は健次におばあちゃんの顔かたちを尋ねました。
答えは「丸描いてチョン、チョン、チョンや」。
ところで、遅ればせながら、柳川とし子刀自のキャストは、丸顔に品のよいチンマリした目鼻という顔立ちの、あの北林谷栄さんです。
さて、ある朝、柳川家の正門に家人たちが見送りに整列したと思ったら、刀自を乗せた白いスカイラインが国道に向けて走り出しました。
その車を双眼鏡で追いかけた正義が叫びました。「あっ、丸描いてチョン、チョン、チョンや」。
「おばあちゃんが外出する!」と、健次と正義は斜面を転がり落ちるように走り出しました。しかし、車(マークU)の運転手平太はトイレットタイムで、追跡が少し遅れたようです。
そのためか、あるいは慣れない山の中のせいか、3人はスカイラインを見失ってしまいました。そんな日が何日か続きました。
そこで、その後の追跡では、追跡にミニバイクが加わり、健次が運転することになりました。車とバイクの二手に分かれて機動性を高めるためでした。
けれども、いつも途中でおばあちゃんと紀美を乗せた車を見失ってしまうことになりました。
やがて、気づきました。朝早く出発したスカイラインがしばらくしてから、運転手(安西はん)だけを乗せて戻ってくるのです。
そして、午後から夕方にかけて、朝とは別の方角から、おばあちゃんと紀美を乗せて戻るのです。
やがて、3人組は知りました。
運転手の安西は、その日の刀自が登る予定の山の尾根の麓に刀自を送り届けると、すぐに引き返し、午後になってから、下山予定の反対側の尾根の麓まで迎えに行くということを。
ルートがしだいにわかってきたので、スカイラインを追跡できるようになりました。
あるとき、スカイラインの後ろから追跡していくと、山奥の集落に着きました。
そこで、道に迷ったふりをした健次が村人に道を尋ね、ついでに何気なく刀自の予定を聞き出しました。明日は、もう1つ奥の集落に行くというのです。