数日後、龍神村の柳川家に、100億円という巨額の身代金の要求を提示した「犯人からの手紙」が届きました。
犯人からの接触は、ただちに和歌山県警本部に報告され、この手紙への対策が検討されました。
ところが、この手紙の内容の異様さは、たんに飛び抜けて巨額の身代金だけではなかったのです。
誘拐犯「虹の童子」は、身代金の要求に対する柳川家の応諾の回答をおこなう代理人=代表として、和歌山県警本部長の井狩を指定していました。それも、地元和歌山放送テレビの生放送で返答を中継しろ、というものでした。
この誘拐犯は、警察の介入をさせるなという脅しをするのではなく、むしろ県警本部長を犯人との交渉の前面に立てろという、異例というか破格の要求をしてきたのです。
つまりは、警察に正面から挑戦状をたたきつけたわけです。
井狩としては、この挑戦を正面から受けて立つつもりでした。
で、テレビで示す回答の打ち合わせをするため、井狩は柳川家を訪れました。
ところが柳川家では、刀自の子どもたちが内輪もめをしていました。
身代金の額があまりに巨額だったため、兄弟姉妹が度を失ったのでしょう。
口論に割って入った井狩。
数日前、兄弟姉妹は井狩と相談のうえ、身代金の要求があってからでは後手に回るということで、身代金として3億円ほどを用意していました。
井狩によれば、この種の誘拐事件では最高額となる身代金だというのですが。
しかし、虹の童子の要求額100億円は度外れに巨額なので、兄弟は途方にくれる一方でした。あげく、諍いとなったのです。
井狩は、この途方もない要求額を根拠として、誘拐犯たちに反撃しようと決心しました。テレビ放送で、彼らの刀自に対する扱いが疑わしいという批判と反論を加えることができると判断したのです。