クーちゃんは怪しげな3人組のことなんか全然気にしません。刀自(おばあちゃん)をお客に迎えた喜びで元気いっぱい、いそいそ、きびきびと立ち働きます。
クーちゃんは、彼女を知るだれの目から見ても、刀自の最大の信奉者にして最強の懐刀です。世界中が刀自の敵になっても、ただ1人孤塁を守る女丈夫だと信じられていました。
ゆえに、まさか、誘拐犯と人質の隠れ家になるとはだれも思いません。
刀自はくらに、ある考えがあって自分が誘拐されたことになっていると伝えたようです。
鋭い気働きのクーちゃんは、この「誘拐事件」は、富豪の家に生まれ甘やかされた温室育ちの「跡継ぎ」とその弟妹たちに「お灸をすえ」て、柳川家の資産と経営の将来にきちんと「道筋をつける」ための大芝居だと判断したらしいのです。
刀自の育て方が甘かったのか、大資産家のゆえか、数多い家人に囲まれた子育てがまずかったのか、子どもたちは経営者の後継ぎとして柳川家を維持してゆくのには向いていません。
兄2人が戦死して後継ぎとなった三男の国二郎は、地場の大製材工場・木工工場を経営しているのですが、旧態依然の経営スタイル、漫然としたやり方で、技術革新や製品開発、新市場開拓には充分取り組んでいません。
まして、このところ経営環境が厳しい山林業について、自分なりの経営方針、事業戦略をもつわけでもないようです。
国二郎のキャストは、脇の甘い富裕な経営者をやらせたら抜群の、神山繁。
末っ子の大作は画家ですが、絵では食えず、実質的に刀自の援助をあてに(ありていに言えば、脛かじりで)生きています。
かつてパリに留学し、金に飽かせて身につけた教養や芸術への造詣が深いインテリです。ファッションなどについての知識も豊富です。
だが、フランスへの留学(何を学びに行ったか知れたものではない)の費用も、御座岬に建てた瀟洒なアトリエ兼自宅の代金も、すべて刀自から借りた(返す当てはない)資金が元手になっているのです。
品のいいお坊ちゃんが「はまり役」の岸部一徳が好演しています。
次女の可奈子は、大阪の大規模なキャバレー・チェーンの経営者に嫁いでいますが、資金回収で焦げ付いただの、投資で失敗しただのと言っては、しばしばこれまた刀自に泣きついてきています。
それでいて、彼女はいつも最上等の若作りの高級ドレスを着こなし、運転手つきの最高級のロールスロイスに乗っているのです。配役は水野久美。
三女は、気性が一番刀自に似通っている英子。
しかし、彼女は財産のある暮らしを拒否して実家を頼らず、献身的で清貧な牧師の妻となっています。
柳川家の財産のおこぼれに与るつもりはまったくないようです。ゆえに、実家の財産にも経営には冷淡です。そんな人物にぴったりの佐藤オリエが演じます。
こうしてみれば、クーちゃんの懸念と判断はあながち的外れではないかもしれません。
当面はもとが大きな資産――700億円の――やから大丈夫やろが、孫やひ孫の代になれば目も当てられん……と心配しきりです。