大誘拐  目次
見どころ
あらすじ
3人の「虹の童子」
おばあちゃん
おばあちゃんの山歩き
誘拐決行
おばあちゃん、3人の人柄を見抜く
驚きの隠れ家
刀自とクーちゃん
クーちゃんの心配
さて翌朝・・・
刀自とクーちゃん
さて翌朝・・・
乗っ取られた誘拐…身代金100億円
県警本部長、井狩
井狩の痛烈な反撃
虹の童子の反撃
警察の追跡網
奇襲作戦
刀自、テレビ中継に登場
山林資産の洗い直し
兄弟姉妹の結束
空のかなたに消えた100億円
刀自の帰還
井狩、刀自を訪なう
井狩、刀自に問いかける
おばあちゃん、「お国」に挑む
刀自の算段
3人の童子の旅立ち
正義の決断
平太の決意
健次の道
作品の奥にあるもの
天本英世のこと

■天本英世のこと■

  この作品のキャスティングには、そうそうたるメンバーが名を連ねています。
  北林谷栄、緒方拳、樹木希林……。
  そのなかで、私が一番気に入っているのが、天本英世です。
  北林谷栄さんも天本さんも、今はもう亡き人たちですが。

  天本さんは、柳川家の大番頭、執事長ともいうべき串田孫兵衛の役柄を個性たっぷり、存在感たっぷりに演じています。
  何度もこの作品を観てみていますが、今となっては、この役を演じる俳優は、当時としては、天本英世さん以外にありえなかった、ごく自然な、当然の配役だった、とすっかり思い込んでいます。

◆ある美術展で◆

  私が東京に住んでいる頃、美術館での絵画展でたまたま彼を見かけたことが2度ほどあります。
  長身痩躯に独特の帽子、ジーンズのスーツ、ウェスタンブーツという出で立ちで、大変格好のいい爺さんでした。

  絵画を見て回る姿は、映画のなかの雰囲気、存在感そのままという感じで、親しみやすさと孤高という相対立する2つを同時にかねそなえた、独特の存在感でした。
  質素で飾らない姿勢で、なにやらどこか飛び抜けたインテリの風貌。
  その日の美術館は人が多くなかったせいか、天本さんは、絵画を展示順にではなく、自分の気の赴くところ自由自在に、あっちからこっち、そしてまた向こう、というふうに見て回っていましたた。
  順路なんかはまったく眼中になく、まさに、自由奔放、独立自尊、わが道を行く、という感じでした。
  もっとも、美術館ではそれが本来の姿なのかもしれません。

  それにしても天本さんの回り方は、非常にユニークでした。
  つまりは、作品群について彼には彼なりの独特の見方、イメイジがあって、その方針というか自分の尺度に合わせて、好きなように見て回っていたようです。
  いい意味で「傍若無人」「唯我独尊」の境地に生きているんだ、と思ったものです。
  芸術家というのはこういうものか、という感じでした。

  私は、一応、展示者=企画者の意図というかイメイジに沿って、順路どおりに、絵画を眺めて進んでいました。
  順路どおりに進む私が、ときおり、たまたま彼が見ている絵画を同時に見る場面が何度かありました。
  あるいは、私が見入っている作品のところに彼がやって来て、同じ作品を見ることになったりもしました。

  そのとき、だいたい天本さんは自分と対話しているようでした。
  独り言だが、それを対話するように、解説するように話しているのです。
  私は、その話を傍らで注意深く聞いていました。すばらしい知識や感性をもったインテリだ、と感心しました。
  たとえば、こんな感じです。
  「名前がヴィクトールか。うーん、スペイン系だな。フランス生粋なら、ヴィクトワールとなるだろうからな・・・。いや、南西フランスか。すると、描き方は・・・」

  独り言の内容は、絵画の歴史やスペイン、フランスの歴史、人物などについてでした。
  絵画展のテーマは、16世紀から19世紀までのヨーロッパ絵画史です。これに関連して、天本さんなりの描画方法論の歴史について、分析を加えているようでした。
  豊富な知識が口に登ります。が、どちらかというと、論理や理論というよりも、彼自身の感性、思いつきに沿って言葉が口をついて出てくるという風でした。
  それだけに、なかなか造詣が深く知識の深さ、広さが感じ取れるものでした。

◆演技の存在感◆

  独特の風貌や行動スタイルと相まって、そのとき私は、まさに彼は尊敬おくあたわざる人物だ、と強い印象をもちました。

  この映画での、あの話し方、間のおき方、トーン、天本さんの感性に従って自然に出た演技なのでしょうが、その背後には、彼の人生の経験や知識、細かい計算、洞察が絡み合ってはたらいているようです。
  つまり、高い格式と長い伝統がある柳川家のに仕え、しかもあの刀自から全幅の信頼を得ている大番頭。そして、飄々、超然としながら、多数の家族や親戚、従業員たちをいつのまにか統率している、抜け目のない爺さん。
  そんな役をみごとに演じきっている。
  あらためて賞賛を送ります。

追伸 2015年5月 加筆編集
  天本さん、北林谷江さんだけでなく、緒方拳さんも今は鬼籍に入ってしまいました。
  個性的で演技術にすぐれた名優たちが去っていきました。それが時の流れだとは思いますが、さびしい限りです。

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