さて、刀自(おばあちゃん)と3人組が訪れた翌朝5時、働き者のクーちゃんは日の出よりも早く起きました。
刀自の朝飯の準備をすると、刀自の見張り役の正義をたたき起こし、山の棚田の稲刈りの仕事へと駆り立てていきました。
朝飯前の一仕事が終わると、家に戻りやっと朝飯にありつくのです。
納屋を宿舎にあてがわれた健次と平太が、母屋の物音に飛び起きて外を見ると、正義は素顔のまま戸外に出て、納屋にやって来ました。
健次が、なぜサングラスとマスクの「変装」をはずしたのかと問い詰めます。
答えは、こうです。
朝、顔を洗っていると(当然、サングラスとマスクははずしていた)、クーちゃんの1人暮らしを心配して妙齢の可愛い女の子が自転車でやって来ました。
正義が人の気配を感じて顔を上げると、面の前に女の子がいて、正義を見てお辞儀をしました。顔を見られた以上、いまさらサングラスとマスクをつけるつわけにもいきません。
さらに、食事のときクーちゃんが2人を引き合わせました。
正義は遠縁の「甥っ子」で手伝いに来ている、と。
この女の子は近くの村の人で、ときどき心配して手伝いに来てくれるのだ、と。
すると女の子は「私、邦子いいます」と自己紹介。
「まさか、お前、自分の名前言ったんやないやろな!」と健次。
正義が返事を返そうとしたそのとき、
「正義、正義〜! 鎌はまだか」とクーちゃんの声。名前が知れ渡っているようです。
正義は、急いで納屋の壁から鎌を取ると、振り向きざま、健次たちに、
「おばあちゃんはとっさに隠れて、邦子さんに見られてへんで。そんで、食事は茶の間にあるから、はよ食べてな」
と言い残すと、足取りも軽く、いそいそと納屋から出ていきました。
正義はクーちゃん、邦子といっしょに張り切って田んぼに出かけていきました。
これまで孤独に生きてきた正義にとって、気のおけない身内のような人たちと仕事にいくのは、きっと心浮き立ち心安らぐものに違いなかったでしょう。
見送る健次は、「世の中変わったもんや。誘拐犯が稲刈りの手伝いか」と呟きました。
それにしても、3人組は首尾よく刀自を誘拐できたものの、予想外のことの成り行きに巻き込まれていくようです。