黒の狙撃者 目次
追いつめられた暗殺者
原題と原作について
見どころ
あらすじ
状況設定と人物配置
ドゥルーモアの惨劇
現実と虚構のはざまで
数奇な邂逅
リーアムの過去
ダブリンでの再会
安全保障局のコンタクト
先手を打ったKGB
ターニャ・マスロフスカヤ
ターニャとリーアム
養父との諍い、そして亡命
暗殺者の迷い
KGBの裏切り
よみがえる記憶
最初の対決
コヒーリンの狙い
コヒーリン追跡
礼拝堂での対決
アイアランド史への視座
イングランドの侵略と征服
宗教改革と収奪の強化
市民革命と植民地支配
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コンドル

ドゥルーモアの惨劇

  本物のドゥルーモアというヴィレッジは、北アイルランドにあるという。

  ところで village は通常「村」「村落」と邦訳されるが、本来、集落の中心地に教会や聖堂がある町のことで、 town よりも格上の都市的な集落を意味する。フランス語の village が英語化されたものだが、ブリテンでは ville から派生した意味合いが強いようだ。

  ところが、この物語にあるドゥルーモアというアイリッシュタウンは、なんと旧ソ連邦ウクライナの片田舎にあった。アイルランドのどこにでもあるような田舎町の佇まい。町の中心部には教会と広場があった。教会はもとよりローマカトリックだ。
  だが、その目の前の広場で集会を開いているのは、彼らが手にした旗や服装から、プロテスタント――それもファンダメンタルなプロテスタント――のようだ。
  プラカードには、カトリック派を貶め攻撃するスローガンが書かれている。ちぐはぐな状況だ。

  その広場に、全身黒ずくめの服装(黒のニット帽、黒のジャケット、ズボン)をした若者が現れた。思慮深そうな風貌だが、他方で、何かの思念に囚われているような視線だ。
  彼は、広場を見渡した。


  すると、彼が立っている家並みの1件のドアを開けて、1人の少女が出てきた。厚紙の箱を手にしている。箱のなかには、ブリキの赤い筒(貯金箱)と手作りのケシの造花が入っていた。それを売って、代金=寄付を募っているのだ。
  少女は若い男に近寄った。男は、少女の手にした筒に5ポンド札を押し込みながら、「ケシの花は全部売り切れたよ、いますぐ家に帰りなさい。いますぐ、ここから立ち去るんだ。いいね」と告げた。
  思わぬ大金に喜んだ少女は、スキップをしながら家路についた。

  少女が立ち去ると、若者は、広場を横切って、「マーフィーのバー」という酒場に入っていった。まだ日が高い昼間、バーには店主しかいなかった。
  若者はカウンターのストゥールに腰を下ろすと、店主に告げた。
「ここで、コヒーリンという仲間に会うんだ」と。
「コヒーリン!? ならず者だ」
  と言葉を返した店主は、若者と目を合わせた。そして、うなづくとカウンターの下から紙袋を取り出した。店主は袋のなかに手を入れて、何かのスウィッチを入れたようだ。そして、若者に告げた。
「5分後だ。早く持っていってくれ」
  つまり、袋の中身は時限装置付きの爆薬で、5分後に炸裂するようにセットされた、という意味だ。
  若者は店を出ると、広場を見渡した。

  おりしも、そこに警察隊の車両がやって来た。爆薬を携行したテロリストがいるという通報を受けて、駆けつけてきたらしい。警察官はハンドスピーカーで、若者に静止して手を挙げる(無抵抗の意思表示をしろという意味)ように告げた。青年が立ちつくしていると、1人の警官が近づき逮捕しようとした。
  そのとき、青年は紙袋を放り投げた。爆発のタイミングが来ているのに、何の反応もなかった。仕組まれた罠に気がついた青年は、足首に隠してあった拳銃を手にすると、目の前の警官を射殺し、続いて、一瞬で車上の警官4人をも撃ち殺した。銃弾はいずれも、眉間や喉、心臓を射抜いていた。恐るべき射撃技術、速さだ。
  自身の殺戮の腕前に、若者自身が驚き、たじろいだような瞬間が訪れた。

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