3つの物語「ユニバーサルソルジャー」「ソルジャー」「サイバーソルジャー」
この惑星には、地球文明に属する住人がいた。殖民惑星(衛星か?)への移住をめざす宇宙船が遭難して、この惑星に不時着し、生き延びていたのだ。岩山の洞窟にコロニーを建設して暮らしていた。
彼らは、地表に農作物を植えて食糧を生産し、あたり一面の廃棄物のなかから生活・生産に必要な用具をつくっていた。毒蛇もいることから、地上には生態系や食物連鎖が成立しているのだろう。
さて、手ひどく傷つき昏睡していたトッドは、コロニー集落の住民によって発見され、手厚い看護を受けることになった。
意識を回復すると、トッドは、30代の夫婦と幼児からなる家庭に引き取られて世話を受けていた。夫はメイス、妻はサンドラ、夫妻の息子は3歳くらいでネイサン。愛情豊かな家庭だった。だが、ネイサンは以前毒蛇に噛まれて高熱を発し、そののち口が利けなくなっていた。
トッドは体調を順調に回復していったが、コロニーの住民とコミュニケイションをすることができなかった。というのは、彼は、これまで普通の人びとのコミュニティのなかで暮らしたことがなかったからだ。それでも、トッドは、以前はソルジャーだったが、戦いに負けたことからスクラップ化されて、失神しているあいだに廃棄物タンカーに載せられ、この惑星に投げ捨てられた、と語った。
トッドは、これまで、普通の人びとと意思疎通をはかるための「言葉」や「心」「感情」を育成する機会を奪われてきた。そのため、他者や外界からの情報(言葉や感情表現)に対して、理解したり、喜怒哀楽などの感情・心象を抱くことができなかった。そういうものを定式化する言葉=カテゴリーがなかった。まして、自分の心情を身振りや表情、言葉にして相手に伝える能力がなかった。
トッドは、無慈悲な戦闘を遂行することに直接関係のない感情や思考、意識を切り捨てられ、削ぎ落とされて成長した。だから、助けてくれた住民たちへの感謝や敬意、信頼とか親しみを表現することはできなかった。彼が抱くことができる情意は、軍組織の命令や規律への服従とか懲罰への恐怖、兵士として生き延びるための欲求くらいだった。それは、感情というよりも、条件反射に近いものだった。
とはいえ、彼は知能そのものはきわめて高く、すぐれた理解力や記憶力の持ち主だった。メイスの家族の愛情、たとえば夫の寛容さ、妻の聡明さと美しさ、幼児の可愛らしさなどについて、トッドの脳は急速に学習を始めていた。ただ、それを形象し表象し、何らかの心象を結ぶようなカテゴリー=言葉(イメイジの操作・関連づけ)の機能が欠落していた。
コロニーの住民たちも、人並みの表情がなく、コミュニケイションがとれないトッドに対して違和感を抱き始めた。
体調が回復したトッドは、筋力や反射能力取り戻すために、以前の軍での訓練のようなトレイニングを開始した。大きな金属缶をサンドバッグにしてのパンチング(殴打)が、連日続いた。だが、それは平穏に暮らしてきた住民にとって、おそろしく殺伐とした暴力的な動きに見えた。
戦闘員として強さだけが目立ち、感情を表さず言葉も交わさないトッドに対して、ついに住民は恐怖や畏怖を感じるようになった。多くの住民が、トッドにコロニーから出て行ってもらおうと考えるようになった。
それでも、メイスはトッドを庇って、何とかコロニーの住民のなかに溶け込ませようと努力した。