グリーンゾーン 目次
虚構の開戦理由
見どころ
あらすじ
イラク戦争とは何だったか
続出するミスリード情報
軍の作戦会議では「疑問」に蓋
占領政策をめぐる路線対立
アル・マンスールで
米軍幹部の策謀と路線闘争
クラークの画策
《マジェラン》とは何者?
深夜の闘争
闘争の果てに
ブッシュ政権の誤算
ミラーの告発
「現代の戦争」
近代戦争の歴史
戦争の目的と敵対国家レジーム
「近代戦争」概念の崩壊
「傭兵の戦争」の復活
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

イラク戦争とは何だったか

  今では、イラク侵略にあたってアメリカのブッシュ大統領が掲げた「公式の開戦理由」、すなわち「フセイン政権による大量破壊兵器WMDの開発と保有」なるものが根拠のない虚構だったことが明らかになっている。
  アメリカ共和党右翼の政治的意図で虚偽の開戦理由が仕立て上げられ、首都をはじめとするイラク各地に数え切れない数のミサイルや砲弾が撃ち込まれた。イラク軍にも一般市民にも、アメリカ軍と連合軍にも夥しい死傷者が出た。
  イラクの秩序や政府組織、平和と民衆の生活が破壊され、その後、混乱とテロは今にいたるも持続している。戦乱は今も継続している。

  当然、開戦理由となった事情を除去するのが、戦争の目的のはずだった。だが、大量破壊兵器はどこにもなかった。その意味では、戦争の目的が達成されなかった以上、「戦勝」はありえない。
  だが、ブッシュ大統領は「戦勝宣言」――公式には「大規模戦闘終結宣言」で、名称には「勝利」の語はない――をおこなった。公式には戦争は終結していないし、アメリカ=連合軍も勝利を達成していない。
  この宣言もまた虚偽に満ちた表現であって、「戦争の終結の宣言」でもなければ「戦勝宣言」でもない。だが、演説内容は目的の達成と勝利を自画自賛したものだった。かつて精神疾患状態にあって、ふたたび頭が混濁した大統領による「たわごと」だった。「開戦」から「終結」まで虚偽に満ちた過程だった。


  仮に表向きの開戦理由が虚偽で、本当の理由がレジーム・チェインジであるとして、イラクのレジームを独裁的・専制的かつ好戦的・侵略的なものから民主的で平和的な――国際平和秩序を受容する――ものに転換するということが戦争の目的ないし目標であるとしても、無政府状態と暴力が横行する状況を生み出したこの戦争は「完全な敗北」「全面的な失敗」以外の何ものでもない。
  夥しい死傷者と膨大な戦費、そしてイラクの混乱…失われたものは数え切れない。こうした重すぎる代償と引き換えに何を得たのだろうか?
  「人類は愚かである」という教訓を得たというのなら、あまりに虚しい。
  イラク戦争は、アメリカ大統領府の政治的意図でペンタゴンが惑乱、迷走して、イラクという国民国家ならびに住民の生活環境を全面的に破壊してしまったという「巨大な過失」「巨大な過誤」であって、衰退しつつあるヘゲモニー国家の権威をことさらに失墜させた軍事的事件であった。
  アメリカの政治制度やマスメディアなどの仕組みが、このような無謀で消耗的な政権の戦争政策を抑止できなかったという意味では、アメリカ政治の民主主義の限界を示した出来事だった。

  この作品では、開戦後またたくまに占領したイラク、バグダードに送り込まれた機動探索部隊MET ―― Mobile Exploitation Team :大量破壊兵器探索除去特別部隊――の兵士の目から、戦争の実態(断片)と開戦理由の虚偽性が暴き出されていく。

  ところで、「グリーンゾーン」とは、バグダードの中心街で大統領府や共和国宮殿などの主要施設が置かれた、旧イラク政権中央官庁街と軍の高官たちの居住区で、アメリカ&連合軍が占領下におけるイラク統治のための本拠を置いた地区を意味する。およそ10平方キロメートルのゾーンだ。
  「大規模戦闘終結宣言」ののちには暫定中央政府が置かれている。
  外部から閉鎖遮断され、幾重にもおよぶ重武装によって平和と治安が組織されている特殊な政治的・軍事的空間だった。

前のページへ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界