グリーンゾーン 目次
虚構の開戦理由
見どころ
あらすじ
イラク戦争とは何だったか
続出するミスリード情報
軍の作戦会議では「疑問」に蓋
占領政策をめぐる路線対立
アル・マンスールで
米軍幹部の策謀と路線闘争
クラークの画策
《マジェラン》とは何者?
深夜の闘争
闘争の果てに
ブッシュ政権の誤算
ミラーの告発
「現代の戦争」
近代戦争の歴史
戦争の目的と敵対国家レジーム
「近代戦争」概念の崩壊
「傭兵の戦争」の復活
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諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

深夜の闘争

  占領軍首脳がイラク軍を敵対勢力と見なして解体したということは、逆に旧イラク軍指導部からすればアメリカ軍は「反撃し撃退すべき敵」と位置づけられるということを意味する。占領軍アメリカに対する旧イラク軍による抵抗運動という構図が出現した。
  ここにいたっては、ミラーがアラウィに面会をを求めるのは、まったく意味がなくなったということになる。
  それでも、ミラーは深夜、信頼できる部下を数人引き連れてアザミーヤの停留所に赴いた。
  そこには、アラウィ将軍の配下がいて道案内役となった。ところが、案内役は暗闇の街角で姿をくらまして、ミラーは将軍の部下たちに拉致されてしまった。ミラーは車に押し込まれて、将軍の隠れ家まで引き立てられていった。

  一方、独自に行動するミラーは、占領軍情報部特殊部隊によって監視されていた。もちろん、ミラーの行き先に将軍がいるはずで、居場所を突き止めて暗殺する計画だった。ミラーはいわば大魚を釣り上げるための餌だった。
  ところが、ミラーが将軍に拉致されてしまったので、イラク軍残党がアメリカ兵を拉致したということになったため、公然とミラーを救出しアラウィ将軍を殺害する大がかりな作戦を展開できるようになった。これこそ、情報部が狙っていた状況だった。

  バグダードのはるか上空にはアメリカ軍の監視衛星がいて、アザミーヤ一帯の道路・街頭での人間の動きは正確に捕捉されていた。ミラーを乗せた車やイラク軍残党の動きはIT回線・モバイルシステムで特殊部隊に提供され、彼らはヘリによる上空からの追跡と地上での軍用車による追撃を繰り広げることになった。


■ミラーとアラウィとの「会見」■
  ミラーはアラウィの隠れ家に連行され、武装集団に小突きまわされた。そして、アラウィがミラーと会見することになった。というよりも、処刑前の尋問と言うべきか。
  ミラーはまずイラク軍によるWMDの開発保有についての情報を求めた。将軍は、吐き捨てるように答えた。
  「今はイラク軍にWMDはあるものか!
  1991年に――クウェイト戦争に敗北してバグダードに逃げ戻るやただちに――われわれは開発途上のWMD(主に化学兵器・生物兵器か)をすべて廃棄したのだ」
  つまりは、父親ブッシュ政権が、侵略者としてのイラク軍=政権を追って軍をバグダードに送るだろうと恐れたフセイン政権と軍部は、「査察」を恐れてWMDを廃棄して痕跡すら消してしまったということだ。

  アラウィは、続いて、アメリカ軍高官のパウンドストーンをなじった。
  「その事実は、ヨルダンでの秘密会談でパウンドストーンに伝えた。パウンドストーンは、WMDに関する情報の提供と、イラク軍が連合軍の侵攻に対して激しく抵抗しないことを条件に、私を占領後のイラク軍の指導者とし、政権を任せると提案したんだぞ。
  それなのに、何だこの卑劣な仕打ちは?!
  イラク軍は解体されてしまったではないか。約束された私の地位はどこに行った?!」
  つまりは、アメリカ軍に利用され、「WMDがない」というアメリカ政府=国防総省に都合の悪い事実が判明するや、アラウィは利用価値のない存在、というよりも邪魔な存在になった。だから排除=抹殺されなければならない、というのがパウンドストーンの方針だった。

  将軍にとってアメリカ軍はいまや唾棄すべき卑劣な敵である。ミラーはそのアメリカ軍の兵士だ。憐憫をかける理由はない。占領軍の政策に憤り、アメリカ兵の血を求める部下に将軍は命じた。
  「私はここから退避する。この男を殺せ」と。

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