その朝、ミラーは、宿泊するホテルの一室で《イラクの大量破壊兵器の捜索作戦の失》について報告書を作成した。
要旨と結論は。
アメリカ軍政部の首脳がイラクに侵攻するため、大量破壊兵器WMDについて虚偽の情報を流した。そのため、METは最初から誤った情報に依拠してWMDの探索活動を展開してきた。ゆえに捜索作戦は失敗するほかなかった。
というもので、つまりは占領軍首脳、すなわちクラーク・パウンドストーンを告発するものだった。
ミラーはこの実態暴露の報告書をEメイルで世界中の主要なマスメディアに送りつけた。
そのあと、ミラーはホテルのロビーに降りた。そこで、パウンドストーンに出会い、作戦失敗の報告書を差し出した。
「WMDに関する情報は、すべてでたらめだったじゃないか!
事実を知っていたくせに。この戦争を始めるために、意図的に虚偽の情報を流したのか?!
大統領府はそのことを知っていながら、黙認したのか?!
はじめから大統領府と結託していたのか?!」 と詰問して、ミラーはパウンドストーンの襟をつかんだが、側近たちによって引き離された。
パウンドストーンは「目的は開戦だ。WMDに関する事実なんかどうだっていいんだ!」と嘯き本音をぶつけてきた。
「どうだっていいい?!
ふざけるな。イラクの戦争に赴かなきゃいけない俺たちにとっては、開戦の理由こそが一番大事なんだ!」ミラーは非難をぶつけてホテルを出た。
ミラーの電子メイルは、ウォールストリートジャーナルの特派記者、ローリーのもとにも届いていた。メイルには添付のメッセイジがあった。
「次からは裏を取って正確な情報を報道してくれ」と。
ラストシーンは、ミラーが率いるMET部隊の軍用車が砂塵を巻き上げながらイラクの高速道路をひた走る場面だ。遠くに油田や砂漠が見える。
虚偽の情報だとわかったのに軍の命令でWMD捜索に出かけるのだろうか。それとも、イラク国家レジームは完全に破壊されてしまったから、もはやMETは不要になったから、アメリカに帰還するためクウェイトあたりの空港基地に向かうためだろうか。
映像は何も説明しない。
この物語は事実にもとづいたフィクションである。だから、ロイ・ミラーのような人物がイラクのWMDに関する情報が虚偽であることを2003年の時点で知って、告発に動いたということがあったかどうかはわからない。たぶんなかっただろう。
というのは、大統領が公表したイラクのWMDをめぐる情報(開戦理由)が虚偽だったという事実が判明するのは、早くとも2007年頃で、もしミラーがおこなったような告発があったなら、もっと前にメディアでアメリカ政府が虚偽の開戦理由でイラクを侵略した事態について大騒ぎになっていたはずだからだ。
だがもし、ミラーのような告発があってそれがメディアを騒がせなかったなら、アメリカの民主主義は「みせかけ」にすぎないということになる。