グリーンゾーン 目次
虚構の開戦理由
見どころ
あらすじ
イラク戦争とは何だったか
続出するミスリード情報
軍の作戦会議では「疑問」に蓋
占領政策をめぐる路線対立
アル・マンスールで
米軍幹部の策謀と路線闘争
クラークの画策
《マジェラン》とは何者?
深夜の闘争
闘争の果てに
ブッシュ政権の誤算
ミラーの告発
「現代の戦争」
近代戦争の歴史
戦争の目的と敵対国家レジーム
「近代戦争」概念の崩壊
「傭兵の戦争」の復活
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諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

■「近代戦争」概念の崩壊■

  ところが、そんな開戦理由もでたらめなら戦争準備もいい加減な戦争がおこなわれてしまった。
  だが、侵攻して戦い既存の政権を覆滅できたとして、征服・占領した領土にはとにかくレジーム=政府を再構築しなければならない。それがどれほど面倒で解決しがたい目標であるのか、それを学んだのがイラク戦争だった。
  そして、解体してみて、国家というものがどれほど複雑で面妖な、そして人民にとって冷酷な存在であるか――そうであるがゆえに強行に秩序を維持していること――がわかった。
  イラク領土内で長い歴史や混乱を経て、強権的政権が生まれ、どうにか分裂や敵対抗争を封じ込めてきたバンドを一気に断ち切ってしまったわけだ。憤懣や怨念を内包したパンドーラの箱を、壊してしまったわけだ。バラけて互いに反発し敵対する諸勢力を寄せ集めことも難しいし、まして、ふたたびまとめることは途方もない時間と努力、忍耐が必要になる。

  ということは、占領に対する敵対や争乱を抑えるのは軍の仕事だろうが、レジーム再編そのものは、およそ軍事組織の目的には収まりそうもない課題だ。というのも、イラクでは相敵対する諸勢力が自発的にまとまり融合して、国民的統合を維持する見込みがないからだ。
  かつての日本の占領とはまったく質が異なる状態だった。日本では人民が国民的統合を維持し続け、講和を受け入れ平和秩序を再建する暫定政権が成立し、民主的な憲法体制の構築に向けて自発的に動いたのだから。


  さて、イラクの国家秩序を破壊してしまったのちの混乱のなかで、アメリカは8年以上にわたってイラクで占領という形で戦争を続けてきた。
  この戦いの敵は当然、国家ではない。というわけで、「国家(連合軍)対国家」の戦争は終わったが、アメリカと連合諸国は、さらにやっかいな敵と終わりのない闘争に巻き込まれていった。敵対政権を破壊したがゆえの泥沼だった。
  相手国家を屈服させ覆滅しても終結しない戦争が、ヘゲモニー国家を翻弄することになった。
  一連の戦闘行為を総括し統制する国家(政府)が存在している場合には、どちらかの軍事的優越が確定すれば、劣位に立つ国家は自己保存のために「敗北者」として講和条件を受け入れる、という「近代戦争の前提」が崩れてしまったのだ。
  敗戦を受諾し講和を受け入れる当事者がないのだから。

  ところが、イラク国家を解体した結果、登場したアメリカ(連合軍)に敵対し、または新たな暫定イラクの政権に敵対する勢力は、むしろ、彼らを抑圧していた束縛が消滅したのだから、跳梁跋扈し続けることになる。しかも、彼らの攻撃はアメリカ軍に限られなかった。
  「アメリカによる平和」を受け入れない勢力は、高度に武装したアメリカ軍(連合軍)ではなく、むしろイラクの一般住民を殺戮し都市を破壊することになった。独裁政権でも平和と秩序を保っていた政権を解体した結果、イラクの市民はほとんど無防備のまま、席巻するテロリズムに巻き込まれていった。それが宗派間、部族・民族間の対立・敵対を増幅することになった。
  こうして、諸国家(主権国家)を担い手とする「近代戦争」の概念と、それに依拠した平和や秩序の管理というスキームがともに崩壊してしまった。

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