グリーンゾーン 目次
虚構の開戦理由
見どころ
あらすじ
イラク戦争とは何だったか
続出するミスリード情報
軍の作戦会議では「疑問」に蓋
占領政策をめぐる路線対立
アル・マンスールで
米軍幹部の策謀と路線闘争
クラークの画策
《マジェラン》とは何者?
深夜の闘争
闘争の果てに
ブッシュ政権の誤算
ミラーの告発
「現代の戦争」
近代戦争の歴史
戦争の目的と敵対国家レジーム
「近代戦争」概念の崩壊
「傭兵の戦争」の復活
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諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

《マジェラン》とは何者か?

  バグダードの占領軍本部は、共和党保守派クラークの政治的意図に沿って完全に牛耳られている。ミラーはそう感じながら、サイードから情報を引き出すために捕虜収容監房に向かった。通訳係としてファリド(フレディ)を引き連れて。
  ミラーはブラウンから支給された通行証を使って、別の捕虜への面会という理由で監房に入り込んだ。そこで、すでに別のイラク人からサイードを尋問する口実となる情報を引き出したように見せかけて、METの作戦上、緊急の面談が必要だとしてサイードの監房に入った。
  すると、サイードは特殊部隊に手荒に扱われたのか、心臓発作を起こして痙攣し倒れていた。サイードは意識を失う直前に「ヨルダンでアラウィが誰かと密かに会合した」と漏らした。

  ウェブ上で「ヨルダンでの会合」というキイワードで記事検索すると、ローリーの記事で「アメリカ政府高官、ヨルダンで《マジェラン》と会合してWMDに関する重要情報を得る」というスクープがあった。「政府高官」とはクラーク・パウンドストーンだ。
  ということは、《マジェラン》の正体は、イラク人亡命者ではなく、アラウィ将軍ではないか! そして、虚偽の情報の出所はクラークということになる。
  ミラーはWMDについての正確な情報を得るために、何としてもアラウィと会おうと決心した。


  一方、クラーク・パウンドストーンは、アラウィ将軍が生きたままアメリカ軍の捕虜になることを恐れて、彼を暗殺することにした。理由は、共和党右派の謀略としてWMDについて虚偽の情報を流したことが軍内で発覚することを阻止するためだ。クラークの意を受けた特殊部隊の隊長は、暗殺任務をイラク人グループに「下請け」発注した。
  こうして、クラークの意を受けたイラク人暗殺グループがアラウィの隠れ家のひとつを襲撃した。そのときアラウィはいなかったが、ミラーが襲撃者を撃退して、そこにいた将軍直属の大佐の命を救った。
  ミラーのその行動は、将軍に直接会う機会を探るためのものだった。
  大佐を逃がすときミラーは将軍へのメッセイジを託した。
  「会いたい。今夜、アザミーヤの停留所に出向くと将軍に伝えてくれ」と。

  ところが、アラウィ暗殺が失敗したと知ると、クラークはミラーやブラウンの企図を無効にするためにも、明日に迫った「自由の大会」をブッシュ政権の思惑どおりの状況で開催するためにも、イラクの国家装置全体を解体することにした。イラク国家レジームの破壊は、大量破壊兵器(WMD)を開発・保有したという理由が検証されてはじめて正当化されるものなのにもかかわらず、この局面で国家機構を解体するということは、開戦理由の正当性をいまさら問い直す意味を消し去るためだったのだろう。
  それは従来からの国際法上の慣行を無視逸脱するものだったが、アメリカは覇権国家の権力をここで如何なく振り回したということになる。しかし、この専横は国連などの場でもほとんど問題にされなかった――もちろん、アメリカが安全保障理事会で圧力をかければ、どの道この問題は封じられてしまはずなのだが。

  その日の午後、クラークと占領軍幹部は、世界中のメディアのイラク派遣記者を集めて記者会見をおこなった。
  「イラク政権、中央政府、軍組織、バース党を解体する。中央政府の官吏と軍の兵員は全員その任(身分)を解除する。政府や軍、バース党のメンバーについては、いかなる公法上の権限、権利をも剥奪する。兵士による武器の携行を禁止する。武器を放棄せよ」と方針をぶち上げた。
  その場面をアラウィはTVで観ていた。顔は怒りに痙攣していた。
  そして、こうなれば自分が掌握している軍の残党を地下抵抗組織として組織し、占領軍に闘いを挑むだけだ、と心を固めたようだ。こうして、イラク国民国家の秩序は崩壊し泥沼の内戦状態に突入することになった。この無秩序カオスを苗床として、シーア派とスンニ派との敵対やらいくつものテロ組織――つまりは憎悪と暴力の連鎖――が増殖・膨張することになった。

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