越境―国民国家の障壁と市民権 目次
立ちはだかる国境と国籍性の障壁
見どころ
近代世界における国家と国民
  「国の歴史」なるもの
  国家は歴史的な構築物
繁栄する都市への人口流動
合衆国の特殊な歴史
『ゴッドファーザー』の世界
メリトクラシー
『扉をたたく人』の物語
  孤独な老教授
  理不尽なハンディキャップ
  一般市民の無力感
『正義のゆくえ』の物語
  マックスの苦悩
  偏狭化したアメリカ社会
  「倫理・風習…の衝突」
  思惑「取引」の破綻
事件を見つめる視線
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■最近のテロ事件について■

  現代市民社会における移民たちの危機的状況を背景として、最近、ヨーロッパではイスラム教徒ないし中東・アラブ系の若者たちによるテロ事件が続発している。
  その種の事件について、私としてはこう考えている。

  移民たちの社会的地位の問題というよりも、テロを実行した若者たち自身の精神病理的な人格性・精神状態が最も大きな原因になってのではないかと推察している。本人たちの精神がもともと殺戮指向的で破滅的な病理状態にあるということが最大の原因で、ISISの影響は、その病理が爆発的に発現する「きっかけ」となったにすぎないと。
  要するに抑制の効かない通り魔的な殺人や倒錯状態に陥る者が、今のところ、イスラム系移民の若者たちに多く見られ、その暴発のきっかけとしてISISのウェブネットによるプロパガンダの影響・触発を受けているというにすぎないということだ。
  もちろん、イスラム系移民・難民の若者たちは、雇用機会や教育機会などで大きなハンディキャップを負わされ、ヨーロッパの市民社会で深い疎外感を抱くようになった状況、あるいは故郷からの逃避行でのPTSDによって精神が疲弊したことが、彼らの抑鬱状態を増幅し、暴発の沸点を低くしているのではなかろうか。

  事件の本質は、刹那的な復讐感情や自滅願望の突発的な発現と見た方が正しかろうと思う。だから、社会集団カテゴリーとしての「彼らの立場」を向上・改善しようとする変革的願望はない。そこにあるのは、極限にまで肥大化したエゴイズムであって、自己犠牲の精神はかけらもない。
  もちろん、そういう絶望的で粗暴な破壊衝動は、必ず一定の社会的ないし社会心理的な文脈のもとで生じるのだが。

  彼らの行動は、特定の政治的要求やメッセイジ性を帯びているというよりも、むしろ鬱積した憤懣の暴発や殺戮指向の精神病理の発露でしかない、そういう側面が一番強いと思う。殺戮への行動に関しては計画性や狡猾性が認められるとしても、政治的な目的や意図からろいうよりも、偏執的な心理や精神状態のなせる業でしかないだろう。
  ただし、ISISのスローガンやプロパガンダは、そういう先進病理的に鬱積した憤懣や倒錯した欲望を暴発させる「ひきがね」になりやすい内容・性格であるのは確かだ。彼らのイデオロギーそのものが、より直接的には、政治的な課題意識とか問題意識を理由とするというよりも、むしろ精神病理的ないしは社会心理的な病理現象の結果でしかないと見る方が正しいだろう。
  倒錯した精神のなかにわずかに残った自己正当化への心理が、ISISのメッセイジへの共感を表向きの口実として示すだけなのだ。

  してにれば、「テロ犯」たちの暴発を刺激しているのは、ISISのプロパガンダというよりも、むしろ世界のマスメディアのセンセイショナルな――しかも手口の狡猾さや破壊力、残忍さ、被害の程度などについての――報道と見るべきだろう。報道が、同じような破壊衝動を抱え込んでいる精神病理者を励起・触発しているということだ。

  したがって、ヨーロッパの治安当局が要監視対象とした人物たちには、ISやテロ組織とのコミュニケイションを調査・捜査するよりも、心理傾向や精神病理傾向を検査するためのテストを施すべきだろう。政治的思想などを追いかけても迷路にはまり込むだけだろう。そして、排外的な社会心理を増幅するだけだ。

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