越境―国民国家の障壁と市民権 目次
立ちはだかる国境と国籍性の障壁
見どころ
近代世界における国家と国民
  「国の歴史」なるもの
  国家は歴史的な構築物
繁栄する都市への人口流動
合衆国の特殊な歴史
『ゴッドファーザー』の世界
メリトクラシー
『扉をたたく人』の物語
  孤独な老教授
  理不尽なハンディキャップ
  一般市民の無力感
『正義のゆくえ』の物語
  マックスの苦悩
  偏狭化したアメリカ社会
  「倫理・風習…の衝突」
  思惑「取引」の破綻
事件を見つめる視線
最近のテロ事件について
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『ゴッドファーザー』の世界

  映画『ゴッドファーザー』シリーズは、3世代にわたるシチリア系移民の家系のアメリカ社会への定着と社会的地位の上昇を描き出している。この映画作品は、アメリカのイタリア系移民社会のありようと、その様相の歴史的変遷を非常に雄弁に描き出している。⇒関連記事へ
  イタリア系ないしシチリア系移民社会のなかでドン・コルレオーネ自身の人生とそのファミリーの歴史が描かれている。
  シチリアの貧しい農村から貧困と地主=ボスの迫害から逃れるためにニュウヨークに移住した少年ヴィトが成長し、家族をつくり、近隣住民社会に根づいていく。その過程で、ニュウヨークのイタリア系移民の近隣社会を牛耳るボスを倒して、新たなボスとなっていく。だが、ボスの権力は裏社会=犯罪での影響力と地位を築いていく過程でもあった。

  1940年代末から1960年代末頃までのおよぶ時期だ。
  世界での覇権を握ったアメリカ社会の急速な経済成長とともに、街区ごとのボス権力はニュウヨーク全体に拡大し、さらに州を超えて連邦規模での犯罪組織のシンディケイト(ネットワーク)を組織化することになった。巨大な利権と影響力をめぐって巨大化したシンディケイトどうしが、アメリカ全体で血みどろの闘争を繰り広げることになった。
  血みどろの闘争で長男が倒れたため、初代のボスを継いだのは、大学教育を受けて軍隊での士官を務めた次男、マイケルだった。
  マイケル・コルレオーネは移民2世で、高等教育を受けてアメリカ社会の権力と富の仕組みを学んだテクノクラートだった。だから、犯罪ネットワークをつうじて獲得した富と権力を土台にして、まともなエリート社会への転身、すなわち合法的企業への組織の転換を目標にしたものの、マフィアの裏世界にどっぷりはまり込んだ「組織の根」を断ち切ることはできなかった。
  そういうマイケルの冷酷な首領ぶりと苦悩に満ちた晩年にいたる人生とその背景にある世界の動きは、1970年代前半から1980年代半ばまでの時代として描かれる。

  ヴィトとマイケル2代にわたるコルレオーネ・ファミリーの歴史は、いわば裏側から見た資本主義的社会アメリカの政治的・経済的変動を的確に描写している。たとえば、イタリア系移民社会を政治的基盤としている連邦議員は、支持基盤である港湾労働組合や商店主団体との結びつきや献金をつうじて、ファミリーの裏世界と癒着していること。富と権力を握る企業でもあるファミリーの影響力は、州裁判所の判事や地方検事の人事や司法判断にまでおよんでいること。そんな状況さえも描き出している。
  移民社会も含む各地のコミュニティでは地方ボス層が政治や経済に強い影響力をおよぼし、連邦議員や裁判所・検事局にまで人脈やカネのコネクションが延びている……そういうアメリカの社会構造の映像的記録にもなっている。

  『ゴッドファーザーV』では、アメリカで成り上がった移民の子孫マイケルと故郷シチリアやイタリアとのあいだの呪わしい絆が描かれる。
  マイケルは裏社会で稼ぎ出し蓄積した富と権力によって表の金融ビズネスでも成り上がり、のし上がった。カネの力、金融力で表社会、たとえばアメリカの政界や財界、さらにヴァティカンへの影響力を拡大しながら、巨大なコンツェルン――持ち株金融会社を中核とする企業グループ――を創設することができた。
  しかし、巨大な金融力をもつようになった企業団が握る権益や利権もまた巨大で、そこには闇の勢力や魑魅魍魎も群がろうとする。その資産と影響力が呼び寄せたかのように、地元アメリカはもとよりイタリア(ヴァティカーノやヨーロッパの金融界)にまで広がった世界的規模での血生臭い陰謀や権力闘争に巻き込まれてしまった。
  この闘争のなかでマイケルは最愛の娘を失い、精魂尽き果ててしまう。  そしてファミリーのボスの座は甥に移っていく。
  マイケルは、ついにシチリアから引きずってきた暴力や呪わしい因習から脱出できずに、失意のうちに生涯をとじた。
  ここには、移民家系の歩み=歴史を見事に描き出している。
  とはいえ、アメリカにおいて移民家系が、このように故郷だった辺境から引きずってきた「しがらみ」にとらわれているばかりではない。

  フィッツジェラルド・ケネディ家のように、アイアランドから移住し、やがてアメリカを代表する資産家門(財閥)を形成し、大統領を筆頭に中央政界に幾人も有力者を排出した家門もある。ケネディ家門は、元老院に議席を確保し続けて、「連邦貴族」家門をなしてきた。これほどではないか、ブッシュ家、レイガン家もまたしかり。
  辺境からの移民家系がアメリカに定住してから成り上がり、数代で財閥を形成し、大統領にまで排出する超エリート層になるのだ。

  ということは、パクスアメリカーナの時代、アメリカでは、辺境からの移民家系の出身者=成り上がり階級を、中央政界や権力中枢というエリート・サークルに吸収・統合するメカニズムが生み出されたということである。
  すなわち、人呼んで「アメリカン・メリトクラシー meritocracy 」である。

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