――マルクスの解体と再構築――
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いましがた、この企業の年間商品生産額は600だと設定した。
固定設備費が全体として45、原材料費が200、労賃=労務費が200、そして利潤すなわち剰余価値が155。この剰余価値は、製造費用=コストの総額を上回る価値増殖分であって、付加価値生産額である。
これは、理論上、労働者(とその家族)が年間の生計を維持して健全に労働力を再生産するために必要な費用としての賃金費用をきちんと合法的に支払ったうえに、なおかつ企業家の手元に残る金額だ。
マルクスは、これを労働者の生きた労働=生産活動が生み出した価値であると言う。もちろん、資本家側の立場からは、「いや、それは投資家としての企業家が生産条件を用意した上で労働者を雇用して合法的に賃金を支払ったのだから、企業家の出費、才覚や経営能力、リスク負担の意思や判断力がもたらした成果である」と言うだろう。
ここでは、マルクスの立場に立つことにする。その方が、原価計算実務が理解しやすいから。
そうすると、生産過程で新たな価値を生み出すことができる要因は、生産活動としての労働だけということになる。
その場合、生産手段の価値は、それまでの生産活動、すなわち過去の労働の結果でしかない。労働者は、自らの賃金分と利潤=剰余価値=付加価値の分を新たに生み出すことになる。
したがって、労働こそが(新たな)価値形成をおこなっていることになる。
では、生産手段の価値はどうなるのか。
もちろん、この1年間に生産された商品の総額のなかに含まれなければならない。ということは、工場や機械設備、用具、原材料の費用は、そっくり商品価値の総額のなかに移されているということになる。つまり、労働者の生産活動=労働によって、この1年間に消尽された生産手段の価値の総額は、すべて新たな商品価値の総額のなかに移転されているということになる。
つまり、労働という価値形成活動をつうじて、生産手段の価値は新たに生産された商品に移転しているのだ。
この価値の移転こそが、製造原価の(うち労務費を除く)生産費用=製造原価を発生させる原因なのである。
というわけで、この生産手段の価値移転がどのようにしておこなわれたか(形態、方法、状態)という視点から、製造原価の発生と評価・記録をおこなう工業簿記(製造原価計算の会計処理)の方法が組み立てられるのである。
これを原価配分という。
一番簡単な原材料費から見てみよう。
工場の生産工程では、1年間にA、B、C、Dという4種の製品=商品が生産されるとしよう。原材料費200のうち、Aの製造だけに用いられる原材料費が100、Bのそれが40、CとDのそれがそれぞれ20、そして4種すべてに共通の部品や材料(ネジとか溶接材料)が20だとする。
ここで、製品Aの年間生産総額は300、Bのそれが150、Cのそれが100、Dが50ということにしよう。合計600となる。
最も簡易な原価配分の方法は、製造コスト総額の445を、それぞれの生産総額に応じて比例配分すればいい。Aの製造原価が445の2分の1、Bのそれが4分の1、Cが6分の1、Dが12分の1ということになる。
では、個々のコスト要因について見てみよう。
まず固定設備の費用の配分。
この4つの製品について、生産設備は4種の製品どれにも使用され、どれもが同じような生産設備の使用法を取るとすると、やはり年間の減価償却費45を、A:B:C:D=6:3:2:1に比例配分することになる。
このように、製造原価を、製品ごとの生産額に応じて比例配分する方法を、「配賦」という。比例配分によって原価をそれぞれの製品に賦課するからだ。
ところが、主力製品のAについては専用の製造ライン設備があって、その減価償却費用が8だとすると、この8という費用はAの製造のためという直接的原因によって発生するから、これを直接にAに賦課する。これを「直課」(直接賦課)という。
そうすると、
工場の減価償却費の20は、すべて製品に共通の条件だから、これは比例配分(配賦)するしかない。整数で収まるAとBだけについて計算すると、Aへの配賦費用が10、Bが5となる。そして、Aの固定設備コストは、この5に専用製造ラインの8を加えた13となる。Bは、Aの専用ライン以外の機械設備の減価償却費12のうちの半分の6が配分されて、これに工場コストの5を加えた11が固定費の原価配分となる。
というわけで、製造設備の配置状況や使用状況に応じて、原価発生の因果関係の関連づけ方が変わり、原価の配分方法が異なるわけだ。
生産のために必要な費用は、原価発生に関する製品との関係、つまり直接的な因果関係が認められるものは、直接にその製品の原価として賦課され、因果関係が間接的であったり明確でないものは、配賦(比例配分)によって割り当てられるのだ。