バンクジョブ 目次
ダイアモンドの呪縛
見どころ
あらすじ
虚栄の輝きの裏に
成功を誇示する女性たち
女性蔑視の階級社会
ソ連との取引き交渉
世界市場支配の仕組み
ソ連の屈服
ホッブズ氏の暗示
階級(差別)社会の盲点
巨大コンツェルンの権力
復讐のための計画
最新監視装置の導入
驚愕の事件
ダイア独占と保険市場
犯人からの驚異の挑戦
謎解きと駆け引き
シンクレアとミルトン
権力を揮うミルトン
ミルトンの死
シンクレアの自殺
ローラの奮闘
ホッブズ氏の復讐計画
ダイアモンド強奪の手口
してやられた経営陣
その後……
■この映像物語の印象■
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世界市場支配の仕組み

  ロンディの最も重要な業務の1つは、世界市場での支配的地位を守り抜くことだ。
  すなわち、第一に原料調達と供給の経路における最優位(独占的地位)を維持確保することが課題となる。
  そのためには一方で、世界市場での独占状態――その当時のシェアで80%以上――を維持するために、世界中のダイアモンド産出地からのダイアモンド原石を買い占め、他方で、こうして入手した原石を自分たちの品質格付け基準によって等級分け・仕分けして、自分たちに最も都合がいいようにヨーロッパ各地の製造加工業者に配分しなかればならない。
  世界市場でのダイアモンド原石の調達と加工・販売業者への供給経路を掌握して、買付けと売渡しにおける価格支配力を掌握するわけだ。こうして、つまり、あらゆる取引きで独占的支配権を掌握し続けて行使するということだ。

  そして第二に、製品加工技術の独占と製品販売市場での最優位を確保し続けることが課題となる。すなわち、ラウンド・ブリリアント・カットをはじめとする精製加工ノウハウ=技術(特許)の独占支配は、精製・加工の工程のあらゆる段階へのロンディの介入統制こそが、販売市場独占の基礎にあるのだ。
  そのための業務が、ヨーロッパ各地のあらゆるダイアモンド加工業者の工程に介入して、厳格な品質管理(検査)手順を経て、製品として完成されたダイアモンドをふたたび受け取ることである。つまりは、工程管理全体への厳格な統制権を保持することだ。こうしてロンディの品質格付けと価値序列を世界市場全体に行き渡らせるのだ。
  以上を前提として、さらに販売市場の独占的支配のために、顧客へのアクセス経路・ノウハウを掌握することであって、まさに顧客市場の囲い込み=独占である。世界中の金持ち階級へのアクセス・ノウハウ、供給ネットワークは、ロンドン=ベルギー枢軸の影響下で200年間におよぶ歴史をつうじて組織化されてきた。

  こうして、世界的規模での原料調達からこれまた世界的規模での流通、そして販売経路までおよぶあらゆる過程への統制支配が、ロンディの世界市場での権力を支えているのだ。
  もとより、ロンディは、ロスチャイルド・コンツェルンを含むブリテン金融資本と密接に結びついている。ロンディの重役たちは、同時にシティの多数の世界企業・金融機関の役員を兼ねていることもあれば、これらの企業の経営陣との人脈的・家門的な結びつきを保っていることもあるだろう。もとより王室から受爵して貴族院議員となっている彼らは、議会やその委員会でもしょっちゅう顔を合わせているだろう。
  彼らのうちの大立者たちは、かつてはユダヤ教徒すなわちユダヤ人家系だったが、すでにイングランド国教会などのプロテスタントへの改宗を済ませているで、ユダヤ系資本ではなくアングロサクスン系資本なのである。ロスチャイルドはもはやユダヤ系資本ではない――もちろんイスラエル国家やユダヤ勢力と同盟することは頻繁にある。

  こうして見ると、ダイアモンド・宝飾業におけるブリテン資本を中心とする西ヨーロッパ資本の世界市場支配の権力は盤石で、ロンディのソ連当局の出方に対する心配は杞憂だった。
  というのは、ソ連には、精製加工技術・ノウハウもなければ、世界的流通経路の組織化能力もない。まして販売市場へのアクセスノウハウ、マーケティング能力は皆無なのである。つまり、ダイアモンドを宝石として製造加工し販売するシステムがまるでないのだ。
  ソ連が保有する能力は、せいぜいよくても、品質や量目で著しく劣るダイアモンド原石を工業用材料(研磨・掘削などの用材)として加工・販売する程度だが、宝石に比べれば二束三文ほどの値打ちもない。ソ連としては外交的な体面を保ちながら、裏ではロンディ資本に屈従して宝飾原料としてのダイアモンドを買い上げてもらい外貨を獲得する機会を逃したくないというのが本音だった。つまりは、ロンディの支配力に逆らえばソ連の外貨収入は激減する。そんなことになれば、ソ連経済は深刻な崩壊要因を抱え込むことになる。
  そんなことができるはずがない。

  これと同じ権力構造が、旧ソ連領内カスピ海・中央アジアの原油資源供給(輸出)における西側資本への全面的=構造的従属という事態ですでに固定化されていた。そこには、社会主義という独自のレジームの自立性は、断片的にすら見出せなかった。
  では、アメリカがソ連の脅威を口実に急速な軍備拡張と兵器開発を進め、冷戦構造を強化するキャンペインに出た理由は何だったのだろうか。イデオロギー的喧伝によって、国家の資源の相当部分を軍拡経済に組み込み、軍産複合体支配型の資本蓄積を強行し、なおかつ日本やドイツを含む西側諸国家を軍事=金融同盟により深く組み込むためだったのだろうか。
  ソ連のレジームの西側への構造的従属は、当時の金融・経済資料から見て明白なのに、軍事的・イデオロギー的には冷戦構造が存続した。
  そういう文脈では「20世紀後半」の〈冷戦幻想〉は、いまだに解き明かされない「謎」のままである。

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