フローレスというブランド名のダイアモンド商社ロンディでマニジャーをしている女性、ローラ・クィンは入社以来、早朝から夜遅くまで献身的に働いてきた。ダイアモンドの商取引での交渉術や知識では群を抜いていた。
だが、女性蔑視の「男の世界」では人事処遇で差別され続けてきた。ローラは、能力や業績で彼女にいく段も劣る男性社員たちの出世昇進を遠くから見つめ続けてきた。
しかもそのうえ、このたび理不尽な理由で解雇される予定になっていた。この強欲な巨大商社と裏で取引している事実を隠そうとするソ連当局の横やりが原因だった。
そんな最悪な境遇にあったローラは、会社の雑役掃除夫ホッブズから、冷酷な会社に復讐するためにダイアモンドを盗み出す計画に誘われた。
ところが、おりしもその直前、会社は警備・保安管理体制を強化したばかりだった。それにもかかわらず、ローラはためらいながら、成功の見込みが低い危険な挑戦に引き込まれていった。
ホッブズの説明では、すぐには発覚しないように、山のようなダイアモンド粒の在庫から、わずかに保温ポット1杯分(額にして200万ポンド)をくすねるはずだった。だが事件が発覚すると、会社の金庫からは総重量2トンにもおよぶすべてのダイアモンド在庫が消え去っていた。
それほど大量のダイアモンドの搬出は不可能だ。現行の保安態勢では、大量のダイアモンドの運び出しは全く不可能だったはずだ。
ミスタ・ホッブズはどうやって盗み出したのか? いかなる動機で? そしてダイアモンドはどこに隠されたのか。その謎を解き明かしたくなったローラが自ら探偵役を買って出た。
盗み出しの手口はまことに秀抜で、謎解きの面白さ抜群の物語。そして意外な結末が待っていた。⇒もっと詳しいあらすじを見る。
映像物語の導入部。
主演者や監督、制作・配給会社などが表示されるクレディット場面で、ダイアモンドの原石が地中から採掘されたのち、選別や研磨工程の後、指輪に加工され、人びとの指にはめ込まれるまでの過程が描かれる――こんな風に。
ダイアモンド原石の採掘は、南アフリカ共和国の露天掘りの鉱山でおこなわれる。巨大なすり鉢のような形状に掘り崩された斜面に水が放出され、ほんの小さなダイアの原石が泥のなかから取り出されていく。掘り出す手の色は――泥の汚れもあるのだろうが――深い褐色である。つまり、アフリカ原住民の労働者によってだ。
原石は水で洗われてざっと品定めされて集められ、クラフト紙に包まれて、鉱山現場の買付け人の手元に運ばれる。この過程で、ダイアモンドをやり取りする手の肌の色は、しだいに白くなっていく。つまり、アフリカ人の手からヨーロッパ人の手に渡るのだ。
買い取られた原石はヨーロッパに送られ選別され、精製され、やがて58面体へのラウンド・ブリリアント・カット加工に回される。場所はベルギーの古都アントウェルペンだろうか。それともロンドンだろうか。ダイアモンド世界市場の権力構造の頂点は、ロンドンとアントウェルペンを結ぶ少数の都市群のあいだにある。
露天掘りは、鉱山で作業する労働者にとってはきわめて危険な作業環境だ。穴斜面の傾斜をきつくして堀下げ、しかも水をかけるから、斜面が崩落しやすいからだ。もちろん、穴から労働者が避難してから放水し、また水が地面に吸収され乾燥してから作業に戻れば安全なのだが、原石が安く買い叩かれる労働者は穴から退避したがらないし、作業の監督者も黒人労働者の安全を後回しにして効率を優先しているのだ。
地球上で最高の硬度を誇るダイアモンドの原石が削られていくのだ。純粋炭素の結晶構造の崩壊線を見出せれば、そこに正確に打撃力を集中させることで、ダイアモンドを望む形に割ることも削ることもできるのだ。削り落とされた微細な破片も宝飾品に加工できるうえに、削り屑すら研磨に使用できるから、まったく無駄はないようだ。
最終研磨の品質検査が終了すると、ダイアモンド粒は貴金属性の指輪台に乗せられ鈎爪に押し込まれる。
完成したダイアモンド指輪は、ヨーロッパの街角で、自分のセレブリティや優雅さや富裕さを誇示したい女性の可憐な指に収まっている。その美しい輝きの背後で、この地球上で最も醜悪で過酷な搾取や人種差別の仕組みが蠢いているのだ。そういう世界市場の現実を一顧だにせず、自分の指にはめた指輪を誇示する女性たちの愚かさを描き出しているともいえる。
この短い映像シークェンスで、ダイア原石の採掘から原料購入、精製加工にいたる過程が、世界の権力の階層秩序、貧富の格差構造になっている現実が語られる。ただし、この過程の本当の支配者の姿は登場してこない。本当の支配者を描くことは、この作品の主題ではないのだ。
ただし、物語の場面は、本当の支配者の一角を構成する巨大商社なのだが。