バンクジョブ 目次
ダイアモンドの呪縛
見どころ
あらすじ
虚栄の輝きの裏に
成功を誇示する女性たち
女性蔑視の階級社会
ソ連との取引き交渉
世界市場支配の仕組み
ソ連の屈服
ホッブズ氏の暗示
階級(差別)社会の盲点
巨大コンツェルンの権力
復讐のための計画
最新監視装置の導入
驚愕の事件
ダイア独占と保険市場
犯人からの驚異の挑戦
謎解きと駆け引き
シンクレアとミルトン
権力を揮うミルトン
ミルトンの死
シンクレアの自殺
ローラの奮闘
ホッブズ氏の復讐計画
ダイアモンド強奪の手口
してやられた経営陣
その後……
■この映像物語の印象■
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シンクレアとミルトン―資本家どうしの権力闘争

  ミルトンは会社の経営危機を救うために、1億ポンドを支払うことにした。そこで、シンクレアに損害補償金を支払うように求めた。だが、シンクレアは渋った。
  「支払ったとして、原石が返還される保証はあるのかね。このままでは、支払うであろう補償金はまるきり無駄になるぞ」
  「何だ、その言い草は。それはどういうつもりだ。私はこれまで、こういう危難に備えて毎年、高額の保険料を支払い続けてきたんだぞ。こんなときに裏切るのか。
  いいか、支払わないつもりなら、お前を破滅させてやるぞ」
  ミルトン卿の言葉は脅しではない。彼にはロイズ会員を束にしてシンクレアを追いつめて破産させるくらいの力がある。

  1億ポンドを今すぐに現金で用意してロンディのために注ぎ込むことはできないが、ミルトン卿の家門とコンツェルンが動かす資産総額は、シティを中心に世界中で何十億ポンドにもなるだろう。その多くは金融資金として投資に回され、有力企業の株券や債券、貿易・金融関係の有価証券などとして、運用されている。
  しかし、資産の金額よりも彼の家門やその取り巻きサークルが保有している政治的・金融的・経済的権力(影響力)こそが、彼らの経済的地位の裏打ちなのだ。ミルトン自身にしたところで、貴族院議院として歴代首相の金融財政、貿易、外交軍事政策の顧問を務めてきた。つまり、政府や軍、警察、貿易業界、金融業界に大きな影響力をおよぼすことができるのだ。

  一方、成り上がりの大金持で我利我利亡者のシンクレアだが、ここで補償金支払いから逃れても、ミルトン家門の影響力でいずれ金融の世界で爪はじきにされて、破滅に追い込まれることは目に見えていた。だが、今は生き延びるために目先の利益にしがみつくしかない。目先の利益に拘束される意識、これこそがシティの成り上がり者の生存本能なのだ。
  「リーマンショック」を先頃経験した私たちは、シンクレアの心性を愚かとは笑えない。何しろ、現代世界の有力な金融家たちは、不良債権確実の金商品パッケイジをこぞって買い付けて、金融市場に流しまくっていたのだから。
  シンクレアは、自分が損害補償金を支払う期日までに――つまり、1両日中に――ロンディが破産してしまえば、支払い義務を免除されるはずだと、自分勝手な判断を下していた。巨大コンツェルンの財務が経営危機と呼べるほどに傾くまでには長い時間がかかることも知らない愚か者とも言える。
  そんな浅はかな判断で、ロンドンの有力紙、イーヴニング・ニュウズに「ロンディのダイアモンド原石の全在庫が盗難に遭って、経営破綻に直面している」という情報リークをおこなった。ほかのメディアにも。だが、藪蛇だった。

  というのも、イーヴニング紙の最大の株主はミルトン・アシュトンクロフトだったからだ。しかも、ロンディ・コンツェルンやその金融グループは、最有力の広告スポンサーだった。それ自体、1個の利潤原理で営まれる経営体=資本家的企業である新聞社は、何よりも資金や利益の出所を尊重する。民衆の知る権利は、株主やスポンサーの安泰が図られたのちに考慮すべき劣後事項にすぎない。
  急速に成り上がった者どもの弱点は、歴史の古いエリート層がインナーサークルとして権力や影響力のネットワーク――利害の集団安全保障体制――を組織していることや、その効力を知らないことだ。
  新聞社の編集部は、ただちに「シンクレア氏から情報リークがあった」とミルトンに報告した。

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