ジェイムズ・エイヴリルの家系も、そういう大牧牛業者を生業としていた。だが、エイヴリルは、WSGAの横暴が目に余るようになると、この団体から脱退して土地を売り払い、売却で得た資産を東部での金融投資に注ぎ込むようになった。
大牧畜業者のなかでもある家系は、子弟を東部の一流大学で学ばせて連邦規模でのエリート階級に仲間入りさせて、粗暴な西部での生活から身を引くようになったらしい。ただし、西部の大牧場や輸出業などを家門の経営資産として保持し続け、その直接的な経営管理を使用人に任せる場合が多かった。ジェイムズの家庭もそういう部類なのだろうが、西部の牧場経営からはすっかり足を洗ったのかもしれない。
だから、ジェイムズの本当の居住地は、おそらくニューヨークかボストンあたりで、本来なら、その地の快適なオフィスで投資案件やら株式市場の動きを検討していればいい身分のはず。
けれども今、彼は、移住開拓民と大地主との階級闘争が熾烈化しているワイオミングに戻り、開拓者の町の保安官の仕事をしている。
映画では、その理由も経緯も説明されない。ワイオミング出身で今や東部の大資産家となった男が、道楽で紛争に口を挟んでいる、としか見えない。「正義感」「反骨精神」がそう仕向けるのか?
列車に乗って南方から帰ってきたジェイムズは、貨物車に小奇麗な馬車を乗せてきていた。鉄道員のカリーは、その馬車とジェイムズの手荷物を列車から降ろしながら、開拓農民と大地主とのあいだの暴力的敵対が今にも「戦争」にまで発展しそうだとジェイムズに告げた。
ジェイムズが街に出ると、街路で移住農民の家族をWSGAの傭兵がいたぶっている場面に出くわした。傭兵に酷い暴行を受けた男は、しばらくして息を引き取ってしまった。
それから間もなくジェイムズは、保安官をしている町まで戻る途中で、夫を失った妻と――父親を失った――子どもたちが、荷車を曳いて開拓地をめざす姿を見かけた。傭兵の暴行が原因で死亡してしまった男の家族なのだろう。だが、夫=父親を失っても、残された家族は、ヨーロッパの故郷を捨ててきた以上、生き延びるための地はほかにはなく、開拓地をめざすしかないということだ。